これら一連の修復作業は、3人のアシスタントにとっては、作る技術だけではなく、古い金唐革紙を実地に調べ、修復するという貴重な機会でもあった。一方、近年、金唐紙を新築に貼りたいという要望はきわめて少ないが、上田さんは東京西池袋の東京芸術劇場貴賓室、児童教育センタ−理事長室などの壁に金唐紙を貼っている。
いずれも一般的に見られるところではないのが残念だ。
もちろん、漆喰壁の美しさに偽りはないし、 ひび割れた土壁の味わいは胸に迫るものがある。京から紙の完成された図案に囲まれた室内は雅びだ。でも、あえて、金唐紙のような装飾を現代の建築物に効果的にとりいれよう、という建築家はいないのだろうか。
金唐紙の将来は?
上田さんは乏しい文献から学び、独力で研究した技法で作った紙を『金唐紙』と名づけている。しかし、金唐紙の使い途がなくては制 作を続けることができない。日本国内の修復が一応終了したと思われる現在、上田さんの悩みは、世界でも希なこの技術を、今後どの
ようにして残してゆくかである。小箱、掛軸、 額装などの小物としてわずかに販売されてはいるが(江戸東京博物館ミュージアムショ ップ)、それだけでは技を受けついだ若者たちが金唐紙に関わってゆくうえで、とても充分とは言えない。上田さんは、海外建築物の
修復や新たな建物に壁紙として用いられる 機会を切に待ち望んでいる。
(2003/2 よこやまゆうこ)
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