こちらは頭を箪笥の中に突っ込んでどこかにしかけはないかと探す。でも、見つからない。嬉しそうな顔で木戸さんは、おもむろに、ここに一つ、そして、ここにもう一つ、と、上げ底になっている引き出しや、桐板の奥の小さな窪みを示す。緻密で仕上げの良い細工の成果というわけだ。
悩みは時間のないこと
納得のゆく作業をすると時間がかかる。乾燥させた材木から板を荒切りし、寸法通りに切り出し、鉋をかけ、ほぞを組み、漆を塗り重ね、金具を作るなどの作業は、すべて一人でやる。分業をしきたりとする職人仕事ならば、木挽き職人、指物職人、漆職人、金具職人と、少なくとも4職の作業でできあがっていくものだ。とはいえ、納期が迫れば、つい見えない部分の手抜きをしたい誘惑にもかられる。そんな心を戒めるように、作業場には「省略しない」の文字が大きく掲げられている。
そんな徹底したもの作りの姿勢を貫こうとすれば、作れる数は非常に少ない。木戸さんの船箪笥は、注文して最低2年はお待ち願う。200年、300年と使われ続ける家具ならば、2年なんて短いとも言える。
最近手掛けるようになった家具に、木挽きの跡を景色として残し、漆で仕上げた栓材のチェストがある。釘を使わず組みだけでできているので、必要とあればすべての部材をばらすことができる。シンプルでモダンな意匠に手の味が加わった、白いインテリアの家に映えそうな家具だ。もちろん、金具も手作り。こちらはそんなに長くお待たせしないですむそうだ。(28万円)
|