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藍染めの普段着を着た女性。竹篭の中は染め上がった布が入っていた。
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たんぼのなかを流れる小川に立って紙を漉いている。

【ベトナム北部山岳少数民族を訪ねて】

工芸品は、世界のどの国のものであっても、その国の歴史や風土、人々の気性や宗教を反映した形、色、素材、そして用途をもっています。けれども、生活水準が上がってくると生活の道具たちは工業製品に置き換えられ、手仕事をする人が少なくなり、放っておくと全く消滅してしまうことがしばしば見受けられます。Side Story1では、ベトナム北部に住む少数民族の手しごとを保存し、彼らの新たな生活の糧になるような方法を見いだそうとの試みをレポートします。

 

1999年12月、国連工業開発機構のプロジェクト「ベトナム北部山岳少数民族伝統工芸調査」が行われました。調査隊は総勢6名。文化人類学者やNGO の研究員らとともに、筆者横山もベトナム北部山岳少数民族の住む村々を訪ねました。彼等の生活に残っている伝統的なものづくり、主に工芸品についての調査がこのプロジェクトの目的です。ハノイから北部に通じる未舗装のがたがた道をジープに揺られること8時間、距離にして約300キロのところにあるカオバンとう町を目指しました。景色は次第に山深くなり、至る所に棚田が作られ、大自然が戦闘の跡をすっかり覆いかくしているかのようでした。(photo1)

現地の事情に詳しいDr. Lanが私たちの心強い案内人として同行してくださいました。私に与えられたミッションは、今も残る手作りの品々を通じて、彼等の現金収入に結び付ける方法を考える、というものでした。下で豚を飼い、その上が住居になっている家屋が数件づつかたまって建っています。電気がある家は少なく、水道はまだありません。平均年収2,3万円のほとんどが農業からの収入であり、農業以外の収入源を確保することが重要な課題となっています。その一つとして民芸品の開発と販売が真剣に考えられているのです。


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村の中を流れる小さな川で女性たちが藍染めの布を洗っている。
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石を積んで作った村のトイレ。扉はなかった。
ベトナム人は金族と53の少数民族から成り立っています。53民族のうちの50民族が山岳地方、主に中国との国境周辺に住み着いています。私たちはこのなかのTay族、Nung族、Nung An族などの村を訪ね、織物、竹細工、藍染め、手漉き紙、お香、陶器などを作っているところを見ることができました。人々はとても人なつこく、Na Gianの市場では、民族衣装を身につけた若い女性も多く、恥ずかしがりながらも一緒に写真を撮らせてくれました。(photo4)

村の市場は活気に満ち、子ブタや鶏、さまざまな山の幸、茶葉、漢方薬として使う植物の根っこ、包丁、布、そして中国から持ち込まれた極彩色の生活用品がところ狭しと並べられ、人々の生活の一面を垣間見ることができました。(photo5)


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村での食事は小さな食堂ですることになるのですが、シナ鍋で油炒めしたものを中心に、具だくさんのスープ、麺類など、私たちの口にあう食べやすいものでした。醤油を主にした味付けなので、味覚ホームシックになることがなかったのは幸いでした。もっとも、料理風景を見たときは、少し抵抗を感じました。
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自然は復活していても、人々の生活はこの国の歴史の痛みをまだまだ残しているように見受けられました。工芸品の方はというと、そうした歴史や戦争による長いブランクの期間があったためか、伝統の技法や材料がしっかり守り伝えられ、人々の生活の中で使われている、とは言えない状況がそこここで見られました。権力者やパトロンとなる地域の為政者、あるいは豊かな市民階級がなかったことも、良質の工芸品が受け継がれてゆくには不利な環境であったともいえます。そして現在では、材料という点からも問題が生まれています。その一つには、森林から切り出す薪が生活のための燃料であるため、樹木の伐採による森の減少が起きています。紙の材料となる楮の収穫、布を織るための綿の栽培など、材料の確保が手作り品の保存や開発にとっての大きな課題となっています。
また、昔は絹や木綿を草木染めしていたものが、今では中国から安価に入手できる合成繊維に置き換えられている例も見られました。60才くらいの女性に、結婚の時に彼女が作った布団カバーを見せてもらうことができました。暗い仕切の奥から取り出した布団カバーは色あせ汚れてはいるものの、細かい織り目や草木染めの色調が美しく、若き日の彼女の情熱が伝わってくるものでした(photo9)。


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この地方では結婚するとき女性が布団カバーを織る習慣があるのです。ところが今では、化学染料で染められた真っ赤、黄、緑などの毛糸を使った、派手なものに取って代わられています。私たちの目には、はげてはいても昔のもののほうが美しく感じられるのですが、昼間でも目を凝らさないと見えないほどうす暗い室内では、鮮やかな色の組み合わせのほうが魅力的と感じるのも仕方がないかもしれないと思われました。

 

 
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彼らはすばらしい竹編みの技と形を持っています。そのいくつかを写真でお見せします。(photo10,11.12)今回の調査ではこれらの竹篭を実際に作っているところを訪ねることはできませんでした。そして、これらの竹篭が今でも作られ販売されているかは、今後の調査に待たなければなりません。

消費地まで300キロの距離を車で8時間以上かけて移動しなければならない厳しい環境に住む人々にとって、村の外に向かってものを販売するということは、とても難しいことです。そして地元での消費は、収入が少ないため、その数は限られています。砂埃を巻き上げて走り去る私たちのジープの後ろから、額にひもをかけ薪を運んで遠い遠い道のりを歩く子供達の姿を見ながら、衣食住において彼等の文化を守りながら、衛生的で適度に便利な環境が得られるよう、何かをしなければならないと思いました。

国連工業開発機構による更なる調査と実行のために、多くの人の知恵と専門知識が求められていることを強く感じた旅でした。
(縄文社/横山祐子)

 

 

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