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工房探訪第8弾「唐桟織の齋藤裕司さんを訪ねて」


『布づくし・展』の出品者を訪ねる染織工房探訪記第8弾は、唐桟織(とうざんおり)の4代目、齊藤裕司さんです。
唐桟織は、綿の生産地インドで生まれ、16世紀末、安土桃山時代の「天保の改革」で絹織物が庶民に禁じられたとき、日本で花開いたと言われる綿織物です。その最大の特徴は、細かな経縞。かつては博多、西陣、堺、川越などでも織られていましたが、現在では川越が機械織りのものを作っているほかは、手染・手織では齊藤さんのところ一軒だけとなってしまいました。祖父豊吉さん、父光司さんはともに千葉県の無形文化財に選ばれ、今は、父と息子が機を並べて制作に励んでいます。千葉県館山市の工房をお訪ねしました。

 

 



3代続いた家業の家に生まれるということは、言葉はなくても、小さい頃から跡継ぎという期待を感じないわけにはゆきません。ところが、デザインの道に進みたいという息子の望みに、父光司さんはノーとは言わなかったそうです。このことが、かえって息子の心を動かしたのか、結局、跡を継ぐ決心をしていた、と裕司さんは振り返ります。そのお陰で、江戸から続く唐桟織は、とりあえず絶滅から免れたのです。
着物好きの人なら、唐桟と聞けば、藍染めの基調に白茶、紅、緑などの細い縞柄とのイメージをもっているはず。九鬼周造の『いきの構造』を紐解くまでもなく、江戸の粋はもっぱらこの縦縞の無数のバリエーションのなかにあったとも言えるでしょう。けれん味のない普段心を感じさせる織物です。四代の時間のなかで伝えられてきた縞のパターンは膨大です。ときおり、骨董店で古裂の小片をびっしり貼付けた縞帳を見つけ、そのヴァリエーションに目を見張ることがありますが、色どり、本数の組み合わせは無限です。でも、四代目が目指しているのは、平成の唐桟織です。洋服感覚で着物を着こなそうとしている若い女性にむけて、細い細い縞を提案します。遠景では無地、近づくと細い縞というものです。これなら、帯によっていかようにも雰囲気を変えて楽しめそうです。消費者も、唐桟織への固定観念を変えなければならないようです。

 

 



裕司さんは緑の色だしにも工夫をこらします。草木染で緑色を定着させるのは難しいのですが、綿織物のプロとしては、作る量の問題もあり、まず化学染料で染めます。その染めは鮮やかでむらがありません。そこで、草木からとった染料でもう一度染めます。そうすることで、均一すぎる化学染めに、深みとまろ味をだすことができるのです。

 

 



また、ある程度の量産を可能にする機(はた)は、左右から手で杼を飛ばすのではなく、滑車を往復させる"ばったん"と呼ばれる仕組みを使います。織手は、平織りの足の踏み変えと、右手でハンドルを引くだけで、かなりスピーディに織ることができます。この作業、滑車は軽いのですが、毎日何時間もしていると、右肩腱鞘炎になりそう。この方法でも、父と二人で年間250本を織るのが精一杯だそうです。藍染めをして、4反分の糸を整経し、48mを織り、砧(きぬた)で叩き、やっと仕上がるのですから、暇を惜しんでの作業も頷けます。

 

 



砧で叩く、ということ。木綿や苧麻で織られた織物を、平たい石の上で、樫などの堅い木でできた砧で叩く作業です。25cmほどに折り重ねた着尺を、何度もたたみ直しながら、万遍なく、どこにも叩き残しがないように叩きます。叩くのにたっぷり1時間はかけると伺って驚きました。齋藤家の砧は2k以上もあり、持ち上げるだけでずっしり。今度は、確実に円回内筋が悲鳴をあげる番です。
染め織りを家業とするお家は、息子が跡継ぎとなっていることが多いのは何故か。齊藤さん曰く、"この仕事は肉体労働です。"染めの作業では、水を含んで重くなった木綿糸を中腰でたぐったり絞ったりするし、4反分の糸を機にかけるのも、結構きつい作業であることは容易に想像がつきます。家業の重みは、伝統の重みだけではなかったようです。でも、砧打ちした木綿地は、打たない前に比べてうっすら光沢をもち、手触りも大きく違うのですから、やはり砧打ちは大切な工程であることがわかります。
齊藤さんは、将来、細い番手の木綿糸で着尺を織ってみたいと考えています。木綿は普段着とされていますが、控えめな光沢を持ち、やわらかに身に馴染む唐桟は、気軽に着物のお洒落を楽しみたい、という女性のこころをつかむような気がします。丸洗いできる縫製も考案され、"オフタイムは唐桟でくつろぐ"、というキャリアウーマンがでてきそうです。
齊藤さんの連絡先は 0470―23―1509

(2004/7 よこやまゆうこ)


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