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原木市というところ


岐阜県各務原市にある原木市にでかけました。ちょっと普通では訪ねる機会の少ないところではないかと思われるので、レポートしたいと思います。
石川県山中町に住む漆作家で木地師と呼ばれる職人でもある佐竹康宏さんに連れられ、彼の跡継ぎとなる2人の息子と、2人のイギリス人も一緒です。

その日の朝は3時起床。山越えをして岐阜県へ。底冷えする3月初旬の吹きさらしで、7時から競りが始まりました。4、50名ほどの男たちが板の間を歩きながら、どんどんと競り落としてゆきます。この日午前中の競りは広葉樹の板が400点ほど。焚火にあたりながら常連らしき男性が、“最盛期にくらべると格段に少ない”と呟いていました。佐竹さんによると、この原木市は日本中でも5指に入る市で、ここの材木はすでに選び抜かれた良木ばかり、商品にならないようなものは出品されない、ということです。

     
 
 
     
    市売明細書から拾い出してみると、欅、楢、樺、栗、銀杏、檗、桜、桐、栃、水目、栓、楓、楡、檜、一位、辛夷、楠、朴、杣、たも、けんぽなし、などなど。日本の山々を彩ってきた樹齢100年を超える樹々、なかには数百年の広葉樹から切り出された板や柱材も。英国の木のプロであるウッドワードさんも、こんなに大きな原木市は英国にはない、初めて見た、と去りがたい様子。佐竹さんは、息子たちと銘木選びに忙しいのでした。

佐竹さんの木地師という仕事は、漆を塗る前の椀などの木地を轆轤で挽くものです。挽いた木地に、布を貼り、下地をつけ、下塗り、中塗り、上塗りなどの工程を経て、やっとあの美しい漆塗りの椀ができます。さらにそのうえに沈金、蒔絵、象嵌などの加飾が行われます。木地師がいなければ漆作家は椀、棗、盆、茶托など、挽きものと呼ばれる器は作れません。作家がだすラフスケッチをもとに、木地師の技とセンスが微妙なカーブや厚さを決めます。コンピュータ制御の轆轤が登場しないかぎり、美しい形は木地師の鍛えられた目と指先の感触から生みだされてゆきます。人一倍、木への愛情が深い手しごとといえそうです。
   
 
     
    日本の木造建築や木工芸品の美しさに欠かすことのできない広葉樹。日本人の美しい木目に対する愛情にはなみなみならぬものがあるように思います。朝日を浴びて累々と並ぶ板や丸太を見ていると、まだまだ育ったかもしれない樹を切り倒したからには、無駄にならないよう大切に上手に使いたいものだと、強く思った原木市でした。         

(2005/4 よこやまゆうこ)

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