公文さんはすでに裂き織りの本を出版し、数多の受賞を果し、裂き織りを志す人々の間では、フォーランナーともいうべき存在です。なぜ公文さんが裂き織りに取り憑かれたのか、不思議でしたが、黒っぽくて、重たくて、どこか貧しい暗さをひきずっていた裂き織りに別れを告げ、全く異次元の布地にしてしまった公文さんのお話は、尽きせぬ好奇心とそれを追求するエネルギーに満ちあふれたものでした。
公文さんの染め織りのキャリアは、クラフト関係の会社に勤めるかたわら、娘時代のお稽古ごととしての織物教室に始まります。ここで彼女が獲得したのは、織りの分野で「組織」と呼ばれる、布の設計図の作り方を徹底的に学んだことでした。平織、綾織をはじめとして、綜絖(そうこう)の通し方、足の踏み方の組み合わせで、さまざまな「組織」の織物を織ることができます。「組織」をマスターしたことで、公文さんはまず一本目の“鬼の金棒”を手に入れたのでした。
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