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公文知洋子さんを訪ねて


2004年1月〜2月に新宿リビングデザインセンターOZONEで開かれた『布づくし・展 日本の布200選』には、日本各地の作り手から260点を上回る作品が出展されました。着尺と帯が中心のなかで、公文知洋子さんは、とても不思議な布を出展して下さいました。それが、裂き織りの進化形ともいえる「裂織布(サキオリ ファブリック)KUSHU-KUSHU」(意匠登録済)と彼女が名づけた布でした。畳めばむくむくと起き上がる、ポールに掛ければぶるんぶるんと伸びたり縮んだり。有機物のような紅い布は、展示会場でも大いなる自己主張と不思議な存在感を見せていました。


公文さんはすでに裂き織りの本を出版し、数多の受賞を果し、裂き織りを志す人々の間では、フォーランナーともいうべき存在です。なぜ公文さんが裂き織りに取り憑かれたのか、不思議でしたが、黒っぽくて、重たくて、どこか貧しい暗さをひきずっていた裂き織りに別れを告げ、全く異次元の布地にしてしまった公文さんのお話は、尽きせぬ好奇心とそれを追求するエネルギーに満ちあふれたものでした。

公文さんの染め織りのキャリアは、クラフト関係の会社に勤めるかたわら、娘時代のお稽古ごととしての織物教室に始まります。ここで彼女が獲得したのは、織りの分野で「組織」と呼ばれる、布の設計図の作り方を徹底的に学んだことでした。平織、綾織をはじめとして、綜絖(そうこう)の通し方、足の踏み方の組み合わせで、さまざまな「組織」の織物を織ることができます。「組織」をマスターしたことで、公文さんはまず一本目の“鬼の金棒”を手に入れたのでした。

 
「組織」を学んだ後、さらに違う角度から織りのことを知りたいと思い毛織物会社へ転職。ここでは徹底して産業としての織物製造にかかわりました。ヨーロッパから入手したウール地見本から「組織」を判別し、デザインをして紋紙を作り、試織用のジャガード機でのサンプル作り。さらに、色出し、柄出し、糸量の計算、そして染めの発注をするまでの仕事に関わりました。趣味の世界から一気に実業として織物と関わる世界へ。ここで2年間、びっしり鍛えられました。この経験が金棒の2本目です。
布との関わりは関西に移った結婚後も続きました。3歳の子供をつれて草木染めを習いに通い、吉岡常雄氏のところでは、草木染を化学的に理解するべく、講義とデータ作りの講座を受け、徹底的に染めを学びました。さらに、原毛を紡いだり、さまざまな織りを独学しました。“もうこの頃は夢中でした”とおっしゃいます。こうして鬼の金棒は2本3本と着実に増えていきました。
多様な経験と知識と技術が一気に花開き、兵庫県展の第一席をかわきりに、伊丹クラフト展、京展、新工芸展などに出品。日本クラフト展では、その年から新設されたテーマ部門(この年のテーマは「古典」)に裂き織りで出品し、テーマ部門賞を受賞。この受賞の陰には、ちりめんブームのとき、古物商で黒っぽい大島の着物や藍染めばかりを求める変わり者と思われ、ずっと肩身の狭い思いをしてきたこともあったとか。藍染めの布が何度も水をくぐり色褪せ変化した美しさが大好きな一方、紅絹(もみ)と呼ばれる紅花染めの深紅の絹布もお気に入り。その紅絹と藍古布を使った作品で朝日現代クラフト展グランプリを受けました。それからは、経糸に、光る糸、縮む糸、伸び縮みする糸など、表現の幅はとどまることなくダイナミックに進化してゆきました。
 
    『集』シリーズと名づけられた「re-裂織布(サキオリ ファブリック)」では、裂き織りされた布の小片がミシンによりつなぎ止められどこまでも広がってゆき、畳2枚分もの大きさにまでなり、風を孕んで青空に翻りました。もうこうなると裂き織りの世界では収まりません。用途もインテリアからファッション、クラフトからアートの分野にまで広がっています。昨今の裂き織りブーム現象を見るとき、公文さんの好奇心に導かれた研究熱心と実行力の結晶は、期せずしてブームの火付け役となったかもしれないけれども、とうにブームとは全く関係のない領域にあるといえそうです。

アジア、ヨーロッパに旅されたとき携えた布をご自身で撮影されていました。アンコールトムでは尼僧に頼んで纏ってもらったり、スイスの雪渓を背景に、また砂漠地帯の峠の地面にと、その土地に違和感なく溶け込み、自然と一体になっている布たちは、実に無国籍です。
公文さんの仕事のキーワードは、“多様性”とお見受けしましたが、多様なひとつひとつが、いつかどこかで必ずからみあい、補足しあって新しいものに展開してゆく。これからどこまで進化するのか、とても楽しみです。
   
    著書:『公文知洋子 裂織の世界−裂(さく)・Fabric Art』 染織と生活社
   


(2006/1 よこやまゆうこ)

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