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ダンディな手染めの帯を作る荒木節子さんを訪ねて


2003年1月/2月に新宿リビングセンターOZONEで開かれた『布づくし・展 日本の布200選』の出展者をお訪ねしているシリーズ工房探訪の番外編は、東京白金台にあるギャラリーSpace TRYで2005年春に開かれた個展を拝見し、以来、是非お訪ねしたかった染色作家が荒木節子さんです。その個展では、30本ほどの帯地が天井から吊り下げられ、着物関係の展示とは思えない、帯ってこんなに斬新になれるんだ、と教えてくれた展覧会でした。

今春、9回目の個展を控える荒木さんの染めの仕事に、大きな影響を与えた3人の人物がいます。写真家の中村正也氏。学生時代から数えて13年間もアシスタントとして中村スタジオを切り盛りしました。書家の手島右郷氏。10年以上習ってきた「一字書」というジャンルの書の先生。そして、陶芸家前田正博氏。対象を見切る眼を写真家から、考え抜かれた単純な線を力強く描く技を書道家から、色のことを釉薬の発色を工夫する陶芸家から学んだとおっしゃいます。この三様の表現と技が荒木さんの中で融合し、帯の染めという伝統の分野に発揮されたことは、実に喜ばしいことと言わざるを得ません。
なぜ帯の染めに関わるようになったかといえば、書に親しむうちに着物を着る機会が増え、古着屋で気にいったものを探して着ていたところ、知人たちの“無地の着物で手軽なお値段のものが少ないわね”という言葉を聞き、親戚の丹後縮緬を取り寄せてみた。そしてある時、ちょっとした手違いから10枚分もの帯揚げの無地が届いてしまった。返品するわけにもゆかず、それなら自分で染めてみよう、と台所染織で染めたところ、友人たちに大好評。初回の成功に気を良くして、どんどん縮緬染めを重ねてゆきました。のめりこむタイプと自認するほどの研究熱心から、テキスタイル学校にもゆき、染めの基本を短期間で習得しました。丁度この時代は、新しい素材やテクニックが次々と開発され、日本のテキスタイルが目覚ましく豊かになった画期的な時期と重なっていたことも幸いしたようです。さまざまなジャンルを試みたすえ、卒業制作に帯を選んだことが現在の道につながってゆきました。40代も後半からの染め修行とプロへの道。師と呼べる人を持たず、自己流を貫く制作に、この道の先達から励ましの言葉を贈られてキャリアを歩み始めました。
 
幅36cm、長さ5mほどの帯をキャンバスに見立て、引き染めで下地に色を置き、シルクスクリーンを駆使して、あたかも刷毛で引いたかのような擦れた味のパターンを造り出す技は、すべて学校で習った基本を自己流に工夫したもの。2005年の個展では『春を待つ』と題して生地の白をうまく活かした作品を、そして、2006年春の個展は、『かなたへ』と題して、スクリーンを使わず、手で色を重ね置いてゆく手法をとりいれた作品を多く展示する予定。地味目の無地の着物に、斬新な荒木さんの帯の組み合わせは、着物と帯の常識的組み合わせ、という約束ごとを軽く飛び越えます。その潔さがファンを魅きつけるのでしょう。着物という“かたち”は好き、でも、堅苦しい決り事から離れて、自分の感覚で着物を着たい、という女性に支持されています。手ごろなお値段に押さえてくださっていることも、ちょっと手をだしてみる気になれる有り難いところです。

大物アーティストたちの助っ人に徹し、陰で支える仕事が向いていると信じてきたのに、ある時、自分の世界が欲しくなった。その気持ちをエネルギーにかえ、独自の道を切り開いたところが、すごい。朝日新聞の記事では、『遅咲きの作家、今が旬』と紹介されました。中高年のエネルギー持て余し気味の女性たちに、希望を持たせてくれそうな荒木さんの生き方です。
   


(2006/3 よこやまゆうこ)
    荒木節子さんの個展のお知らせ:
『かなたへ』
2006年4月18日(火)〜29日(土)
11:00am〜7:00pm
Space TRY
108-0071東京都港区白金台4-19-20
tel:03-3447-2559
http://www.spacetry.com/

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