竹田安嵯代さんの自宅兼アトリエは、京都から少し離れた桂にあります。ある時、竹田さんが肩にかけていらした大小の円錐形が振り分け荷物のように繋がっている黒革のバッグを拝見したときから、竹田さんの仕事に興味を持ち始めました。この方の作るバッグは用よりも形が優先していて、そのことを楽しみなが作っていらっしゃるに違いないと。昔、ニューヨークを発信地に“art to wear”と名づけて、一点限りの手作りのジャケットやドレスが出現したことがありますが、それにも似たもの作りを竹田さんのバッグに感じました。
竹田さんのバッグは、四角、長方形、楕円丸といったバッグらしい形のものは一つもなく、不思議な曲線とふくらみをもったものばかり。その強烈な印象から、一度見たら忘れられないバッグです。
38年のバッグ作りのキャリアを持つ竹田さんですが、手仕事が好きでバッグ作りに入ったのではなく、そのせいか、好んで描くという人体の曲線が自然にバッグの形になって現れてくるらしいのです。ご本も、”わたしはそんなに考えて制作しているわけではありません”とおっしゃいます。
バッグ作りの技法を学んだことはなく、全くの独学。革と布を素材とするソフト・スカルプチャーが、たまたまバッグになっていると言うのが相応しいようです。アートの延長としてのバッグとも言えるでしょうか。だからといって、ジッパーの上げ下げや中身の出し入れが不便かというと、思いのほか使い易い。いま流行のエコバッグの対極にあるようなバッグですが、不便を我慢しながら持つことになるようなものではありません。肩にかけると、不思議と身にそって馴染んでくるのです。
竹田さんのバッグは、革やキャンバス地をパッチワークにした上からミシンをかけています。ミシンの目は鞄本体の曲線にそってうねうねと波打っていたり、一点から放射状に放たれていたり。ミシンの目が布や革に強度を与えるだけではなく、陰影とリズムをつけることにもなっています。また、小さく穿たれた穴も革の表面にテキスチャーを添えています。そのユニークな形は、蛹のようでもあり、ジュラ期の甲殻類のようでもあり。あるいは、セイウチのようでもあり、黒熊のようでもあります。大きな蛾がもぞもぞと孵化を始めて動き出しても不思議ではないような気がしてきます。
そんなオーガニックな形は、ふっと紙の上にデッサンとして出てくるそうですが、油絵作家を目指して研鑽した確かなデッザン力があってのこととお見受けしました。でなければ、一過性の試みに終わってしまい、38年間続くことはあるまいと思われるからです。
1970年に創作を始めてから、関西圏を中心に東京、九州と年に数回の個展やグループ展を精力的に開き、竹田さんの個性に魅せられたファンにバッグを提供しています。ブランドものにも飽きたわねとおっしゃる向きには、ぴったりなバッグかもしれません。次はどのようなデザインが出てくるのか楽しみです。
(2008/5 よこやまゆうこ)
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