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『吉田紘三さんの手織り教室』

染め織りを教えることを天職のようにして続けている方がいらっしゃいます。
京都西陣の織り屋に生まれ、染織作家の道を進み始めていた吉田紘三さんは、28歳のとき、請われて教え始めたのをきっかけに、現在では、京都、園田(尼崎市)、横浜、松戸、大森、浜松、福井、青森、北九州と、9カ所で教室を主宰。作家に弟子入りをしないで染め織りを習える貴重な場となっています。吉田さんは創作着物を作るかたわら、教えることにも同等かそれ以上の情熱を、36年間もの長い間注いでこられました。各教室に月2日出張し、その日を待ち構えている生徒たちからの質問攻めにあい、一人一人に手づからさまざまな作業の技を教え、また相談に乗ったりします。また、例えば織りあげたあと洗うと消えてなくなる糸や、強撚糸を提供して、生徒たちに試してみることを薦めるなど、新しい可能性を惜しみなく示してもくれます。
作家活動に邁進するひとの多い京都にあって、教えることに大半の時間を費やしていらっしゃる吉田さんの生き方には、信念のようなものが感じられます。 2002年「染織と生活社」出版になる『手織りの実技工房 絣からもじり織まで』の巻頭から、ご本人の言葉をご紹介します。

「私は30年手織り教室を主宰しています。教室には大勢の方が訪ねてこられます。「今までひとりでやっていた人」「他の教室で学んだ経験がある人」「織物産地の訓練校を卒業した人」「染織関係の学部に在籍している大学生」「まったく初めての主婦の方」などなど、「手織りを教えてください」とひとりひとりの動機は多種多様ですが、今以上に向上したいという思いは一様に強く持っておられます。しかし、「ではどんな織物が作りたいですか」とお聞きしますと、初めての方たちは「最初は簡単なものを」と、経験がある方でも「どんなものができるのでしょう」と一歩後退されます。
私は思います。「初めての方でも作りたい,織りたいという気持ちがあれば必ずできます。作れるのです」と。作品作りを始めてからでも配色に困ったり、一本の線をひくことに迷って決められないということがあります。私は、技術的なことを聞かれた場合、知識のある限りすべてをお話しますし,実際に機にかけて誠心誠意指導します。しかし、こと作品の配色であるとか、一般的なデザインということになると、私がお話ししたりアドバイスすることが、逆に私の考えや完成をその人におしつけてしまうことになるのではないか、という気持ちがします。そんな場合には、相手の方の話を時間をかけて聞き、作品集を見せ、どういうものづくりなら気に入るのかを見つける努力をします。しかし,本を見せると、多くの人はデザイン・色彩などその本の通りのものを作ろうとしがちです。作品展や、作品集などの本や写真など多くのものを見るのは大変意義のあることだと思いますが、見てきたもののコピーになったのでは残念な思いがします。デザインは、スケッチをし、それから図案化してゆくのがよいでしょう。絵心がないと思っておられると、しり込みしがちです。しかし、そうしたことを心がけていれば、感動した風景の写真など様々なものがデザインのヒントになると思います。できた布に満足するかどうかは別の問題です。もし気に入ったできばえでなければもう一度作ればよいのです。そのことが「熟練」となり気に入るできばえの布ができるようになるのです。「必ずできます」私の主義です。 それから、織物を学ぶ場合、世間にはどのような布があるのかを知ることも大事なことです。大勢の人たちが学んでいる場所に身をおくと、今まで気づかなかった布の特徴や表情に気づき、自分の作りたい織物の風合いまで求めることができるようになります。
「絵心がないんです」「こんな難しいことできません」そうではないのです。「必ずできる」なのです。では始めましょう」


訪問した京都教室では、広い空間にところ狭しと機が置かれています。そこでは、吉田さん考案の試し織り機で風合いを試している人、緯糸が斜めに走る三軸織をかけている人、糸染めをしている人など、誰もがしたいことをマイペースで行い、わからないときは先生に尋ね、それを周りの人も覗いて見ている、という具合です。工房の二階には神奈川県や滋賀県から住み込みで勉強にきている女性もいます。東京大森教室では、20年以上も本格的に染織を続け、自分の教室をもちながらも毎月吉田教室にくるというベテランをはじめ、綴れ織で自画像を織るという人、桜の枯葉から深い茶色を染出して絣の着尺を織ろうという人、インドからカシミヤ糸を輸入してスカーフに挑戦する人など、自著の巻頭に書いていらっしゃる言葉通り、吉田さんの「必ずできます」主義が、生徒にも自由な発想と怖じない挑戦を促しているようです。

吉田KUN

ドラム整経機
  吉田手織工房では、機や杼の製造もしています。織り機はその地域で織られてきた布作りにふさわしい特性を持っているのが常ですが、長く教室を主宰している経験から、もっとも合理的で織りやすい機を改良を重ね進化させながら製造しています。「吉田KUN」と名づけられた機や卓上型手動レバー式の機「みやこ」、プロの着尺の整経にも充分使える場所をとらないドラム整経機などです。
機織りは、基本を守れば必ずきちんと布が織れる実に合理的な世界。そこを何とか,,という融通は利きません。経糸と緯糸が直角に交わることを基本に、そこから派生する応用は数限りなく、古来、人々はどうにかして誰も織ったことのない布を織りたいと工夫に工夫を重ねて今日に至っています。 試行錯誤から生み出されたそれらの工夫は、人間の叡智と情熱の賜物です。吉田さんはそんな世界を体験したい人にとって、うってつけの指南役です。ご自身の知識を惜しみなく伝授し、新らしい発想を促し、その実現方法まで教えてくれるのですから。
5月からは奈良の和裁学校から望まれ教室をもつことになり、ますますお忙しくなりそう。吉田さんの最大の悩みは、ご自身の作品作りの時間がとれないこということだそうですが、水墨画を墨染めの絣で表現した布を織りたいとのこと。また、さまざまな土の粉から色を抽出して染める「陶土染」も、長年の研究課題として取り組んでいらっしゃいます。
平成20年10月に長野県の駒ヶ根シルクミュージアムで開催予定の「第1回 現代手織クラフト公募展」では審査員として参加されます。(応募受付8月1日〜26日 詳細は0265-82-8381まで)
”先人の知恵と努力の結晶、織りの技術が消えないように、今私にできることは、長年の経験で得たすべての技術を伝えることです。”という吉田さんの強い思いは、36年間、数多くの生徒たちを育て、これからも続いてゆくことでしょう。

 吉田手織工房連絡先:075−432−1592
    (2008/6 よこやまゆうこ)

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