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「本場奄美大島紬」の糸を楽しむ二家本亜弥子さんを訪ねて

「本場奄美大島紬」は、日本の絹織物を代表する希少な着尺裂として愛されてきました。一反の着尺を作るのに30工程を経て、仕上げまで半年から一年もかかるといいます。絹糸使用、先染め(糸を染めてから織る)、平織、手合わせによる絣(かすり)模様、絣糸の染めは「織締め」(木綿の経糸に絹の緯糸を図案どおりに織り、染め分けること)などの諸条件を満たしたものだけが「本場奄美大島紬」と呼ばれます。
絣のルーツは、5〜6世紀にインド、スマトラ、ジャワ、チモール島などで作られていたイカット(結ぶ、縛るを意味するマレー語)にあると言われています。大島紬の歴史は1800年前に遡り、テーチと呼ばれる木の幹のチップから抽出した液で染めたものを、さらに鉄分の多い水田の泥で繰り返し染めて作られます。亀甲、米の字絣、ツガ十の字、風廻しなどの細かな絣模様に加え、泥染、泥藍染、草木泥藍染などの手の込んだ工程を亜熱帯の炎天下で染めるという、肉体的にも厳しい作業から生みだされる独特かつ貴重な絹織物です。今では後継者不足は言うに及ばず染めに適した泥のある水田が減り、ますます貴重になってきているとも聞きます。そうしたわけですから、泥染した糸は簡単には手に入りません。

二家本亜弥子さんは、遠くに富士山を眺めるマンションの一室に3台の機を置き、大島紬の糸をふんだんに使って帯やスカーフを織っています。どうして泥染めの糸がふんだんに使えるのか、そのわけを伺ってみました。
二家本さんの実家は、昔から奄美大島で大島紬の織物問屋を営んできました。奄美生まれの二家本さんは、家業に忙しい両親にかわり、徳之島にいる祖父母に育てられました。島の東海岸には良い港があり、本家のあった花徳(ケドク)と呼ばれる町は、二毛作から得られる収入で豊かな庄屋の家が多く集まっていたといいます。祖父母の家でも、輪島塗の漆器類や工芸品が数多く使われていたのをおぼえているそうです。祖母はお洒落な女性で、大島紬はむろんのこと、京都の着物を愛し、自身でも針仕事をよくする女性でした。二家本さんは、たくさんの着物が収められた祖母の桐箪笥のなかがいつも気になって仕方のない、好奇心いっぱいの少女だったそうです。マンションの仕事場には、真っ黒に古色のついた昔風のお針箱があり、祖母のかたみとして大切に使っていらっしゃいます。
  島の豊かな自然のなかで、糊付けのために道いっぱいに張られた長い絹糸のあいまをくぐって遊んでいた二家本さんは、鹿児島の高等学校を出たとき、子供の頃から興味をもっていた大島紬の織り子になりたいと思いました。しかし父の大反対にあい、叔母をたよって東京の学校へ。卒業後は、銀座でのOL生活を満喫。結婚後、フランス料理のシェフであるご主人の理解もあり、田舎から織機を送ってもらい織りを習い始めました。幼い頃からいつも目の中に入っていた染めや織りの作業をほどなく習得。やがて、母に勧められて大島の糸を使い始めたとき、二家本さんの創作のスタイルが決まりました。細かい絣模様に染められた糸を緯糸にして織った帯やスカーフです。さらには、ふんわり感をだすために、撚機を使ってカシミア糸に大島の糸を一本撚りつけた糸を作るようにもなりました。
糸にまつわるこんなエピソードも。ある時、閉鎖する地元企業が泥染めされた糸の処分に困っていることを知り、全ての糸を引き受けると胸を叩きました。ところが、送られてきた段ボール箱は予想外の数。マンションの階段を埋めつくし、しばらく隣人に肩身の狭い思いをしたこともあったとか。また、そのままでは使えない古い糸を真綿にもどし引き直した糸や、数本まとめて切って結び、特徴ある糸を作るなど、今も新しい風合いや効果を生み出す工夫をしています。個展のときには、こうした糸を緯糸用としてほしい方に譲っています。
 
    もともと泥染の大島は落着いた色調が多いので、二家本さんのスカーフも渋い色合いのものばかり。最近、東京広尾で行われた個展でも、年齢を問わず人気を呼びました。いまでは高級品の本場大島紬の着物を着るひとは少なくなってしまいましたが、大島の細かい絣糸の風合いを楽しんでもらえたら嬉しいので、こうして手軽なものに仕上げて紹介してゆきたいとおっしゃいます。職人の技を駆使して染められた大島紬の糸が尽きるまで、二家本さんは生まれ故郷との縁を大切に思いながら、織りの作業を続けたいと語ってくださいました。
    (2008/12 よこやまゆうこ)

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