蓄えた実力が発揮されるチャンスは東京に戻ってほどなく訪れました。2002年、現代美術の知人がプロデュースする『Cross Point』と名づけた展覧会です。絣模様を手で括り、天然染料で染めた幅40cm、長さ約10mの布20本を、5mx8mの面積に吹き抜けの天井から吊したものです。制作には、糸を括って染めるだけでほぼ2年の年月を費やしました。何と、この面積には5億6000万個の点が存在します。さらに2005年には、新作『Cross Point n.8』を再び現代美術の企画展で発表。制作の様子をそばで見ていたパートナー曰く、明けても暮れても糸を括り、次第に青白くなってゆく作り手の姿には、鬼気迫るものがあったそうです。これらの展覧会を見逃していたことは痛恨の極みですが、アートとしてまた工芸としての、その意味を理解した人はどれくらいいたことでしょうか。