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『羽生野亜氏からの英国視察旅行記』

このサイトを主宰する縄文社では、2000年の英国視察旅行を皮切りに、自由に見聞を広げ体験を積んでいただきたいとの目的から、グレイトブリテン・ササカワ財団の支援を得て,毎年、工芸家を英国に送り出す事業を続けています。ささやかながらもこの事業が長きにわたり続いてきたのは、日本の工芸に対する財団の深い理解と支援の賜物であることは言うに及ばず、参加した工芸家たちの訪問地での活動が地元の人々に高く評価されてきたこともあると思っています。その入念な受け入れ準備にはヘレフォード在住のウイリアム・R・ティンギー氏の献身があることも、大きな要因です。
現地では、単なる物見遊山ではなく、ただ視察してくるだけでもなく、手作りの作品を通じて日本のこころをを伝えよう、地元の人々との交流を計ろう、とのプログラム作りを心がけてきました。染織、木工、和紙など、多岐にわたる分野からの工芸家による事業の内容や、参加者の感想文などは、このサイトのside storyで紹介しています。

2009年度事業では、木工家の羽生野亜さんが木工作品を携え、スライドレクチャーを行い、英国ドーセット州を中心とする地元の木工家との交流を持ちました。その様子を、羽生さんの手記でご紹介します。
文中にあるメイクピース氏(John Makepeace)は、2000年の事業で氏の主宰する家具の学校を訪れており、常に指導的立場で完成度の高い家具作りを推奨している人物です。事業終了後、メイクピース氏をはじめとする参加者数名から、自分の仕事を見直すきっかけをもらった、木に対するアプローチの違いに瞠目した、といった好意的な感想が寄せられています。

(2009/9 よこやまゆうこ)



『英国で見たこと感じたこと』

2009/7 羽生野亜


今回の英国への旅は、2009年6月に渡英、ドーセット州にあるメイクピース邸でのレクチャー及び、木工家5名のアトリエを訪問した。
まず、ロンドンののデイビッド・ウオルトン(David Wolton)氏から始まり、オスウェストリー(Oswestry)在住ジム・パートリッジ(Jim Partridge)&リズ・ウオルムスリー(Liz Walmsley)氏のアトリエ訪問まで、走行距離800マイル(1300キロ)の旅である。
ロンドンを出ると景色は一変、ひたすら続く広大な丘陵地をティンギー氏の運転で移動。日本に比べると起伏は少なく単調だが、地平線がある風景は気持ちが良い。とにかく牧草地が多く、緑の絨毯がどこまでも広がっている。きっと人より羊の数のほうが多いと思う。でも緑の絨毯は羊や馬の糞でいっぱい、用心して歩いてしまう。

訪問する木工家の選定にあたっては、現地の事情に詳しいティンギー氏に4名選んでもらい、残りの1名は私がインターネットで調べて見つけ出した人物をティンギー氏に交渉して頂いた。このことから、日本にいると一部の有名木工家を除いては、全くと言っていいほど海外の情報が入ってこないことを痛感した。
今回は敢えて伝統的な木工ではなく、現代的なものつくりをしている作家を中心に、英国の木工事情を視察した。現代的といってもそこには英国ならではの背景があり、日本人とは違った価値観で木工が展開していた。



ガイ・マーテイン(Guy Martin)
クルーカーン(Crewkerne)在住


以前メイクピース氏の工芸学校で教鞭をとっていたこともあり、自分の仕事を理論的に説明してくれた。昔からエコロジーをテーマに家具を制作している。
材料は周囲に自生している間伐材となる細いアシュー(ひいらぎ科トネリコ属の木)や柳の枝から調達するので、輸送エネルギーは少ない。ガイ氏曰く「余るような材料」である。
接着剤が使えない生木には釘を使用している。早くでき(ローコスト)、修理も簡単(エコロジー)など、昔からの知恵だそうだ。細い柳の枝を器用に曲げ、細いアッシュの皮を剥いて旋盤加工する。時にはステンレスや銅も使う。
英国は木が豊富な印象がある。町から出ると楢やアシューの林がどこにでも続き、巨木もよく見かける。
(ただし英国の違法木材輸入量は世界でワースト3位/2007年度。日本はワースト2位。)
ガイ氏のように、近所の木が使ってものつくりができることは羨ましい限りだ。
アトリエで機械や道具も見せてもらった。道具には個性が出るので見ていて結構楽しい。ガイ氏の手道具は手入れがされてない状態の物ばかり、親近感を覚える。 セルフビルドの新しい仕事場ができたばかりで、裏に園芸用温室を増築中。庭つくりも手抜かりはない。他の作家のところでも、自作の見事なガーデンや住まいを見る機会が多かった。作品だけでなく、日々の生活にもこだわりが強く、大いに刺激を受けた。それとも、英国は娯楽の種類が少ないために、生活習慣にDIYや庭つくりがあるのだろうか。





デビッド・ウエスト(David West)
ライムリージス(Lyme Regis)在住


画家、彫刻家、ドールハウス制作者、設計家等、多彩な活動を行っている。
まずはコレクションの一つである、高さ2mはある100年前のディスク・オルゴールを演奏してもらう。100年前とは思えないすばらしい音色を体感。自宅兼作業場は築200年くらい。自身で改築、きれいに手を入れていた。
アトリエには海のモチーフが刻まれた半円柱形の木製板が2個。パイプオルガンのカバーである。このカバーの完成後に設置される町内の教会を見学、こちらはなんと築1000年である。1000年の間、繰り返し増改築がなされており現在も進行中。昔は住民たちの手でそれは行われ、今は町の技術者や芸術家が協力している。窓の形が場所によって違うのは、時代が異なるからとの理由に納得した。1000年前の人々から受け継ぎ、子孫たちにバトンを渡す。ヨーロッパ的な壮大な時間の流れ、物の作り方を思い知らされる。
彼が計画に参加した浜辺のイングリッシュガーデンにも足を伸ばす。地域密着の仕事である。





  ジム・パートリッジ(Jim Partridge)& リズ・ウオルムスリー(Liz Walmsley)
オスウエストリー(Oswestry)在住


丸太から形を削りだした非常に重い家具を制作している。公園ベンチの重さは数トンもあるだろうか。
アイデアや形態はシンプルかつ原始的であり、表面処理は大胆で荒削り。しかし印象はモダンで、日本人好みの静寂感を漂わせている。
デザイナーや建築家好みな作風で、建築家と組んだ仕事が多く、ストリートファニチャーや橋までも作る。
好みや感覚が近いのか、お互いの作品を説明する必要があまりなく、しばしば「うなずきトリオ」状態になった。





  イギリスは、ナショナルトラストを代表とする伝統を守るシステムができている国であるとともに、他方で先鋭的なデザインを生み出すこともできる、不思議な国であった。
古いレンガ作りの建物にガラスと鉄骨(もしくは木材)を使ったモダンな空間を増築、古いものと新しいものが突然ドッキングしている光景をよく見かけた。接合部分は簡単にシーリング。木工も古い価値観と新しい発想が混在している。この絶妙でアンバランスな感じが、私にはイギリスっぽく感じられた。
今回の視察はグレイトブリテン・ササカワ財団の助成で行われ、ビル・ティンギー氏、ジョン・メイクピース氏ら、多くの方々の協力で実現した。ここで深く感謝申し上げます。

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