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『彦十蒔絵 若宮隆志さんの挑戦』

香港→北京→パリ→マルセイユ→エジンバラ→ロンドン→サンフランシスコ(2回)→サンタフェ→バーレーン(2回)→香港→台湾。この度重なる海外訪問を一年たらずの期間にするというのは、いったい何の職業なのでしょう。商社マン?ジャーナリスト?車ディーラー? いいえ、輪島の漆芸家/プロデューサー若宮隆志さんです。今回は文化庁から「文化交流使」に任命されての8カ国歴訪でした。毎年、ロンドンでの美術品オークションに参加する一方、海外美術館、大学などの機関から求められ展示会、レクチャー、ワークショップなど、Makieの普及に努めて来ました。

(上記写真は、展覧会カタログから掲載)
 
若宮隆志さんは、ご自分でも制作する一方、各分野の優れた技を持つ人とタグを組んでご自分の作りたい作品をまとめあげてゆくという、時間とこころを使う作業に多くの時間を割いています。
2014年銀座和光で開かれたひとつの展覧会は、瞠目に値するものでした。『融合する工芸』と題され、5名の異なる分野の第一線で活躍する60〜70年代生まれの工芸家のコラボレーション作品が展示されました。乾漆の笹井史恵氏、竹工芸の田辺小竹氏、ガラス/截金の山本茜氏、白磁の若杉聖子氏、そして若宮隆志氏の5名です。総合プロデューサーは美術史家前崎信也氏。氏の言。「日本には縄文時代から藍胎(竹籠に漆)があった。江戸時代には白磁に蒔絵を施した磁胎漆器があり、印籠や煙管筒、煙草入れなどには、金属、漆、陶磁器、象牙、竹、ガラスなどの素材が自在に組み合わされ、現代より遥かに自由な異分野間での表現の可能性が追求されていた。が、明治以降、工芸家の交流が失われ、個性発揮ばかりの工芸制作が現在にまで続いている」 この展覧会の副題「出会いがみちびく伝統のミライ」は、もう一度、工芸異分野間のコラボレーションの可能性を21世紀の工芸として取り戻そうとの試みを示しています。2年前、竹の田辺小竹氏と若宮さんのコラボレーション作品を発表して以来の延長線上に発展した展覧会でした。
 
若宮さんは何故そんなに多くの時間と労力を海外での活動に使うのでしょうか。真の目的は、現代日本のひとびとに漆の可能性を再発見してほしい、そのためです。そのためには回り道かもしれないけれど、海外の審美眼のあるひとびとにアピールして注目を集めたい、と。海外のひとびとに漆の素晴らしさをわかってほしい。それが若宮さんの情熱です。

(写真提供 若宮隆志)
 
一つの作品を例にとってみましょう。15〜16世紀に活躍したドイツ人画家アルブレヒト・デューラーの犀の木版画をもとにした作品、犀の賽銭箱。これを漆で作ろうとすれば当然、乾漆という技法が使われます。立体を漆で作る時、紙と漆を重ねて形を作りだす技法です。けれども、彼はあえて乾漆を使わず、木塊から形を彫り出し、そこに考案した漆の青銅塗を施したいと思いました。発想を得て以来15年、輪島の仏師白井直樹氏に頼み込んでやっと完成に至ったというものです。何という遠い道のりでしょう。そこまで木彫の木地に拘ったのは、海外では乾漆では高い評価を得られないと考えたからです。これは、彼の経験から得た、譲れないこだわりであったようです。16世紀の木版画を木と漆で立体に作ることは、新しい価値観=文化の創出だと考えています。 若宮さんの挑戦は、これからも続きそうです。彼の活動を見て、輪島の若い世代の作り手が増え、かつ彼らに腕を磨く機会を提供すること、そして、世界中から輪島に漆技法を学びに若いひとびとがやってきて、漆工芸が途切れることなく世界の美術工芸として続いてゆくことが彼の夢です。応援したいと思います。
    (2015/2 よこやまゆうこ)

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