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作るから使うへのつなぎ手 その4工藝サロン 梓の田中政子さん
作るから使うへのつなぎ手 その4工藝サロン 梓の田中政子さん
JR藤沢駅からバスで5分の住宅街の一角に、ひっそりと「工藝サロン 梓」はあります。「工藝サロン 梓」は平成5年、人通りの少ない小学校の裏手といった立地にオープンしました。裏原(ウラハラ)などと名づけられお洒落なブティックやカフェが原宿の細い裏通りに出現した時代がありましたが、そのずっとずっと前のことです。そして、工芸離れが進み、老舗をはじめ工芸大好きおばさんが自宅の一階で開いた店がばたばたと店じまいした時期がありました。そのときも、「工藝サロン 梓」は悠然と生き延びてきました。
オーナーである田中政子さんは、この住宅地の静けさのなかで、25年間、常設販売と個展とで、国内外の工芸家を紹介し続けてきました。
 開店のきっかけは、その昔イギリスを訪ねた折、古びた家屋の続く田園風景のなか、庭先でレース編の品々を並べる小さな店を見たことが閃きになったと言います。こんな感じでも店ができるんだ、と思ったそうです。彼女は店の在り方を “ドーナツ商法”と呼んでいます。店の近隣にお客さんは居なくても、その少し先から来て頂けるような店であればいいと。作家選びにもこだわりがあります。第一には、人気作家を追いかけないこと。雑誌で取り上げられると、方々の店で扱われ、品薄になり、体制を整えた頃には、雑誌は次の作家を追いかけ、、、と。無名でも、良いと信じて買い取りした品は2年後3年後でも必ず欲しい人が現れる、自分の目を信じることです。地方の作り手を発掘することも彼女の楽しみであり、得意技でもあります。個展を企画する時にはどんなに遠くても作り手の現場を訪ね、時間をかけて話し合い、人となりを知り、制作の環境を肌で感じることを欠かしません。 こうして得た情報を通じて“人と風景”を、品物とともにお客様にお渡しすることを心掛けてきました。


 田中さんのバックボーンには、地方に残る文化や手しごとへの関心があります。若い頃から旅をし、地域に根づいた竹笊や泥人形、焼き物などを見て歩いた体験です。無名の作り手を探し当てる探査能力と、これはと思ったらすぐに愛車を駆って作家を訪ねる身の軽さは、名づけて“韋駄天お政”。
 その品揃えは多岐にわたります。長野や高知の作家の椅子や厨子、輪島や木曽の漆器、九州の陶器や和紙小物、京都のガラス食器、デンマークの女流陶芸家、イギリスのリーチ工房の陶器などなど。お手頃で売れそうだから置くのではなく、良いと信じ使ってもらいたいから並べる。その “お客様を見くびらない”姿勢は、長年のお付き合いのお客様との信頼関係につながっています。
 もう一つの特色は、当節、手作りの家具を扱う店は稀少で、家具好きの田中さんは、きめ細かく注文制作の間を取り持つ役目を果たします。長く続くお店には、こうした地道な努力や、筋の通った信念のようなものがあるようです。サロンの名に違わず、湘南を中心に、古いお客様がまるで友人に会いにくるように来店され、会話を楽しんでゆかれます。それは彼女たちの日常のなかで、ほっとする時間と空間になっているということなのでしょう。
 デザイン性の高い手頃な量産品がネットで簡単に手に入る時代ですが、“人と風景”を伝えてくれるつなぎ手は貴重な存在になりつつあります。長く続けてほしいと願います。

工藝サロン 梓
住所:神奈川県藤沢市本鵠沼5-10-3
0466-25-7770
http://www.azusa-kougei.com

(2019/5 よこやまゆうこ)

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