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<シリーズ・私のたからもの>『上原美智子の3gの白い小さな布』
   沖縄生まれ沖縄育ちの上原美智子さんは、海外でもその名が知られる日本を代表する染織作家の1人です。handmadejapan.comでは、2001年のSideStory#032SideStory#039SideStory#047、2004年のSideStory#092、2006年のSideStory#158など、たびたびその活動をレポートしてきました。
   今回は、これ以上の薄い布はないだろう、という宝物。上原さんは、繭から引き出したたった一本の3デニールという髪の毛よりも蜘蛛の糸よりも細い糸で織られた布を<私のたからもの>として、詩のような文章を寄せて下さいました。
   上原さんはご自分の薄織りを「あけづば織り」と名付けられました。”あけづば”とは沖縄の古語で”とんぼ”のこと。その羽根はぱりっとした感触と透明感。彼女の薄物は、着物地のように柔らかく精錬した絹糸ではなく、蚕が身を守るために出すセリシンという物質を少し残した張りのある絹糸が使われています。
   ある時、上原さんの作品を英文訳する時、gossamerという言葉があることを知りました。”薄い布”の意の他に、蜘蛛の糸を示すこと知り感動したものです。
   何よりも素材を一番大切なもの、その糸にふさわしい布を織ることを考え、天然の糸からさまざまな表情と色を持つ布を織り続けて半世紀。彼女の言葉 ”人が生まれて最初に身を包むのも布、天に還る時に纏うのも布”が印象的です。


巾40cmで長さはほぼ3m50cmの小さな白い布。重さは3gほど。
1円玉3枚くらいだ。
息をふきかけると、フーッと舞い上がり、どこかへ飛んで行ってしまいそう。
蚕がはき出す糸は本当にすごい。
くもの糸よりも細く、けれども強い。
その蚕がはき出した1本の糸を経糸に機にかけ、そして緯糸も1本で織っていった。
ちゃんと布になった。
きっと、最初に繭から細い透明な線がスルスルと出て来ることに出会った人は、
どんなにびっくりして、その上面白く、そして美しいと思ったことだろう。
私もその感動を共有した思いだった。
2006年6月のことだった。

   あれから15年。確かだった手応えと感動は、年とともに総天然色からモノクロに、セピア色から更に朦朧体になりかけ、記憶のはかなさと切なさを感じる今日近頃である。

しかし、3gの白い小さな布は、確かなモノとして今も私のそばに在る。

上原美智子

(2021/4 よこやまゆうこ)

(C)Copyright 2004 Jomon-sha Inc, All rights reserved.

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