今回は、
こちら
でご紹介した、熊本で型染の手仕事を続ける岡村美和さんの宝物。ご本人の仕事に大きなインスピレーションを与えたのは、いわゆる民藝運動に連なって活躍した芹沢銈介です。図柄を追求し、単純な形と色で本質的な何かを描き切った不世出の作家でした。
こんな言葉を残しています。「型染には過剰な技術がない。色は単純に煮つめられている。質は見せかけがなく堅実で、模様は絵画から離れて、型紙の必然から生まれた模様になり切っている。このように型染には、手仕事の根元的なものから発する美しさがある。」(「型染の工房から」「婦人画報」1957年2月号 婦人画報社)。
1895年誕生の芹沢銈介氏は、東京高等工業学校図案科を卒業後、図案指導を仕事としていましたが、工芸に惹かれ染色の道へ。また「用即美」を唱えた民藝運動の生みの親であり哲学者でもあった柳 宗悦や濱田庄司、河井寛次郎らと共に、この運動の発展に寄与したと言われています。
各地で育まれた手仕事を守り、次の世代に伝えてゆくという民藝運動のなかでも、とりわけ琉球文化に深い思いを寄せた柳らと共に沖縄に渡り、沖縄の代表的伝統工芸「紅型」を目の当たりにして、よりいっそう、自身の型染に深みを増したとも言われています。
当時、民藝運動の同人たちが注目していた埼玉県小川町の楮手漉き和紙を使ったと思われる、両の手に載るほどの冊子は、手すき和紙にしか感じられない少しざらつきのある手触りと、ほのかな生成色の丈夫な和紙が使われています。
まず、とびらを開けると「ハナヨリモハナソメノハナ」、もう一方には「父エガケ父ナキマデニ」との文字が染め出されています。正確なサイズは23cmx11.5cm、紙の中心を真鍮で綴じ、その片面に4cmほどの型染と手描きで「染」の作業風景。もう片面には「焼き物」「織」「和紙」の作業風景を、やはり型染と手描きで染めてあります。最後のページには「見ている人」との文字と一緒に自身の絵。なんとも心を温かく満たしてくれる冊子です。
昭和41年7月に創作された限定200部のうちの104番目。それが今、私の手元にあるのも、何か運命を感じます。由来は、20数年前、熊本国際民藝館創立に際し、初代館長となられた外村吉之介氏とともに設立に汗を流された知人W氏から頂いたものです。当時、型染を試みていた私に、少しでも創作の世界を広げるようにとの思いから、大切な一冊を譲ってくださったものと思っています。
一歩でも半歩でも近づきたいと思う珠玉の逸品。小さな空間に、簡潔に模様化された作品は本当に大きな宝物です。冊子のタイトルは「花よりも」。
岡村美和/熊本
(2021/7 よこやまゆうこ)
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