藤塚さんは亀岡市で作陶を続ける陶芸家です。
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でご紹介しています。彼の宝物は、古美術鑑賞家・秦 秀雄氏の書と2冊の著書です。人生の道筋を決めた出会いと、その後の長いキャリアのなか、時には励ましになったであろう宝物です。
私の陶芸の道は秦 秀雄氏との出会いによって始まりました。学生時代、『季刊 銀花』に執筆されていた文章を読み、1枚の秋草文煎茶碗の写真に目を奪われ、激しく感動し、思わずお手紙したのが秦氏との機縁となりました。当時は今のようにプライバシー保護の認識が厳しくなく、出版社に電話をして手紙を出したい旨を伝えたところ、快く住所を教えてくれました。 名もなき1学生の手紙に返信をいただく確信は全くありませんでしたが、1週間程でお葉書が届き、そこには「金沢に行くのでよかったら会いませんか」と書かれていました。嬉しくて何も考えず金沢に飛んで行ったのを覚えています。
その秦 秀雄氏が書かれた書「見る目と見ゆる目」が知人から私のもとへやって来たのは、まさに亀岡の地で独立した、その時でした。「見る目と見ゆる目」は意味深い言葉で、それ以来、私の仕事のみならず、人生の座右の銘となりました。秦氏はもともとお坊さんで、骨董の世界へと進まれた方ですので、骨董の審美眼について書かれた言葉だと思うのですが、いろいろな情報が行き交う現代では、より重みを増す言葉として私の胸を打ちます。
看破する目を養うことは非常に困難なことであり、何が本物で何が偽物か常に考え判断するには、いろいろな物を見たり、読んだり、聞いたりする必要があるでしょう。また、多くの人々と出会い、学ぶ必要もあります。浅い知識しか培ってこなかった私には、なかなか重い言葉ですが、今後も大切にしていきたいと思っている書です。
最後に、今では手に入りにくい秦氏の書籍『珍品鑑賞』と『手織物考』の2冊をご紹介します。『珍品鑑賞』には秦氏の直筆で「花にも酒にも」と書かれています。まえがきに徳利の使い道について書かれており、そこからこの文章が生まれたのだと思います。この本の殆どが備前、粉引、伊万里、井戸などの徳利について書かれており、小杉放庵画伯のお酒に関する歌も4首載っていて面白いです。
「かへるさに宵のおぼろの月見たり一本つけよあの月のため」 小杉放庵
酒好きの私にはグッときます。
藤塚光男・亀岡
(2021/10 よこやまゆうこ)
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