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<番外編><シリーズ・私のたからもの>『六高寺菜穂さんの柿渋と継ぎ - 銘酒を守ったヒトとモノとコト』
こちらこちらでご紹介した、プロダクト・プロデューサーの六高寺菜穂さんのこだわりは、酒袋の繕いです。一体何なのでしょう。
好きでたまらない大切なモノがあります。それはモノでありながら、コトであり、ヒトでもある ー 私がここ10数年、サイトで扱っているオリジナル商品「SHIB 酒袋鞄」の材料に選んだ年季の入った「酒袋」です。

酒袋は28cm×80cm程の、元は白く粗目に織られた木綿の筒状の袋で、酒造りには欠かせない道具です。麹などを発酵させた濁酒を酒袋に入れ、重石の力で丁寧に静かに、時間をかけて清酒が絞り出されるという、酒造りの重要な過程を担う道具です。今では、より効率の良い素材が使われ、また機械で絞るなど木綿生地の酒袋はほとんど使われなくなりました。
当時は貴重な道具として手入れにも余念がなく、1本の酒袋を長く使っていたようです。ある酒蔵では閑散期である夏場に、杜氏さんたちが周辺の農家の人たちに手伝いを頼み道具を手入れしたそうで、その際に酒袋に '抗菌と補強’のために柿渋を塗りました。手伝いの農家の人たちにとっては大忙しの季節に酒蔵に駆り出され、しかしその時期の手伝いに参加しなければ貴重な収入源である冬場の酒造りの手伝いには呼ばれない。という駆け引きもあったそうです。日本が誇る美しい酒、それにまつわる多くのドラマのひとつですね。 

白い木綿布に柿渋を数回塗ってもほとんど色は付きません。SHIBの酒袋は灘の銘酒の酒蔵のもの。濃く深い褐色で、写真で見るとレザーと見間違うほどです。何10回どころか、100回近くも柿渋を塗り重ねなければ生まれない風合いです。どれほどの年月の酒造りに使われたのかは知ることは出来ませんが、柿渋が黒光りした様子のものもあり、ひとつの道具を長年バトンタッチしながら丁寧に扱い、守り続けた当時の杜氏たちの「気概」が伝わってくるような気配があります。
塗り重ねられた柿渋にはところどころ継ぎが施されています。木綿の糸をわざわざ何本も撚り合わせ太くして、裂けたところを上手に掬い縫うように継いでいます。その形から「ムカデ縫い」と呼ばれています。白く太い継ぎはリズミカルなアクセントになって魅力的。トンボに見える継ぎや、クレヨンで描いた原っぱの草のような継ぎもあって面白い。1枚1枚の表情の違いに、飽きることはありません。
酒袋に関わった多くの人達には、おそらく「道具」に対しての深い愛が、自然と深く備わっていたのでしょう。酒造りや米作りで培った何世代も継承されるDNAのように「もの」への慈しみがあったのでしょう。銘酒を守っているのだという誇りがなにより大きくあったでしょう。酒袋を手に取ると、溢れ出すようにそんな愛が伝わってきます。どんな思いで柿渋を塗ったのだろう。稲穂の事が気がかりだっただろうに…。1本の酒袋というモノをめぐって、ヒトの思いが重なり、そこでは良いも悪いもいくつものコトが起きたのだろう。と、ハギレ一片も無駄に出来ません。

そしてもうひとつ。「SHIB 酒袋鞄」の誕生のコト。鞄を作ろうと東京近郊の布鞄、革鞄を作る工場を酒袋を持って回りました。9軒回って全て断られました。"継ぎのある・サイズの揃わない・柿渋のせいで厚みも不揃いな酒袋にハサミを入れる不効率な手間はかけられない。”と、ほとんど同じ返答。
けれど10軒目。一流の仕事で有名な、一番ハードルが高く半分あきらめて飛び込んだ革物製造会社で、話始めて数分で快諾のご返答。“こんなに難しいことを実現させようとする無鉄砲さが気に入った"との理由。その方と一点物の鞄に強い革職人さんのお2人のおかげで「SHIB 酒袋鞄」は実現しました。
もうとっくに役目を終えたヴィンテージの酒袋が、そのお2人の職人魂に受け継がれ新しく「鞄」となって生まれ変わりました。

HITOMONOKOTO : www.hitomonokoto.com
(2021/11 よこやまゆうこ)

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