大出君のサラサラな漆
「大出君の漆はとても重要なもので、やたらに使うものではない」。
これは私が長年囚われていた考えです。そして、中国産漆で出来るだけ国産漆の仕上がりに近いものにすることを目的としてきました。しかし、大出君の漆をいつまでも特別扱いにして、いわゆる「大作」を作る時のためにためこんでいることにも少なからず疑問を持っていました。その疑問を払拭するために日頃の制作に使用するようになって一年になります。大出君の漆のもっとも優れた性質は、水のようにサラサラであるという事。中国産漆の粘度にくらべると、その違いの大きさに驚かされます。漆は長年放置しておくと徐々に粘りが出てきてしまいます。サラサラな漆をサラサラな状態のままサラッと薄く塗る。薄く塗る最大の魅力は、何よりも木の質感を損なわないことにあると思います。
漆自体は固まると無機質な質感になってしまい、厚く塗れば確かに堅く丈夫ではあるかもしれません。しかし、それは木で作られたものではなく、硬質プラスチックに似た手触りになってしまうと私には思えます。木製品は漆を塗ることによって補強され、くり返し修理、補強をし、木質が朽ちるまで使われてきました。漆器も所詮木製品の内、金属器や陶磁器などの固さにはかないません。しかしその器の感触はとても暖かく優しく感じられます。大出君の漆は私の中の「漆を塗る」事の意味を変化させ、塗はもちろん、その器を使う楽しみも増してくれました。(「工房からの風」1996年より)
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