ピレネーはフランスとスペインの国境をつくる3,000メートル級の山脈。その谷あいを縫うようにして道が走っています。一車線の対面通行ながら、交互に追いこし車線の標識が出てきて、ルノー、シトロエンなどの中型車が140〜150キロで重たいトラックに追い越しをかけます。車の性能がはっきりその走りを決める道路です。でも、"ごまめの歯ぎしり"のオンボロルノーでの追い越しは、ぐんぐん近づいてくる対向車に、助手席にいながら右足が疲れたこと。
距離を稼ぐためにフランス側の高速道路を利用。国境には“ここからフランス”の看板が立っているだけで何のチェックもありません。高速からはずれて一路Lourdes(ルルド)へ。あの奇跡の泉があるカソリック最大の巡礼地です。立ち枯れのとうもろこし畑を南下するあいだ、すれ違う車も少なく、想像していた静かな奇跡の町のイメージははずれ、土産店がびっしり並ぶ門前町の辻々は大渋滞。どこからこれほどの人がやってきたのか、全く不可思議。マサビエルの洞窟にはろうそくを持った人々の長い長い列。体育館なみの地下礼拝堂があるピオ10世寺院では"3時から礼拝が始まりまーす"のアナウンスを耳に、もと来た道を。洞窟の入り口に掲げられた一本の松葉杖が印象的でした。
乾燥した山肌の続くArties(アルティエス)という国境に近い寒村を走り抜けたとき、一件のバール(居酒屋のような店)に人が集まり、何やら中が騒がしい。覗いてみれば、男たちがコンピュータを囲んでいます。このあたりの村ではテレビのアンテナも見かけた記憶がないから、インターネットはとても珍しいはず。こんな山奥の寒村の人々とも、近い将来、メールを交換できるようになるとは楽しい。
村はずれの雑貨屋で見つけた地元の物らしいバスケット。細い草の束を横に編み重ねた、ちょっと珍しい作り方。店をきりもりしている老婆が、飛び込んできた東洋人に"花やフルーツを入れるのよ"、と上品に教えてくれたので購入。
村を後にし、迷いながらも山のなかにあるパラドールに着いたのは8時。やれやれ。まだ空には薄明りが残り、夕食は8時半から。スペインでの夕食はいつも8時以降。部屋でパソコンを繋いでみたものの、マドリッドのアクセスポイントが繋がらなくて残念。
翌朝、フロントでもらった簡単な地図をたよりにシーニックポイントへ。パンクしないかとひやひやしながら、石ころだらけの険しい山道を登ること30分。目の前に開けたのは息を飲むほど美しいピレネーの峻峰。気温は急激に下がり吐く息が白い。足下には紫色の可憐な花が朝露に濡れ、牧童小屋の煙突からは白い煙。薪の燃える懐かしい香りが。冬が近い。雪とともに牧童はほどなく山を降りるのでしょう。
旅のレポートその5は、いよいよバルセロナ。ガウディの街です。お楽しみに。
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