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ベトナム旅行記
このところ若い女性たちの旅先として人気があるのがホーチミンだという。事実、ホーチミン市内では、2、3人連れの日本女性が目につき、盛んにショッピングをしていた。刺繍入りスカーフ、ビーズのバッグ、カラフルなミュール、バッチャン焼のカップなど、ちょっと異国情緒漂う雑貨は、安いこともあって、つい手が出てしまう。一方、日本国内でも、同様の製品がブティックや、インテリアショップに溢れている。多種多用なヴェトナムグッズが輸入され、それと知らないうちに、私たちの暮らしのなかで使われている。しかし、安いだけの雑貨は、もはやヴェトナムといえども中国産品に押されている。今回の事業は、雑貨レベルではない、ヴェトナムの特徴をもった質の高い手仕事の発掘、開発、環境作りへの最初の足場を築くことである。

『ヴェトナム国地域振興のための地場産業振興計画調査』は、最近、新聞でもよく取り上げられるJICA(国際協力事業団)によるODA(政府開発援助)事業である。今回のミッションは、6月29、30日にホ−チミン市、7月2、3日にハノイで行われたセミナーとワークショップに、工芸品開発とマーケティング専門家として参加することだった。

当プロジェクトの概要をかいつまんで説明しよう。ヴェトナム全土61州を対象に、非農業分野の就業機会創出のために手工芸品の開発を目的とした調査とパイロットプロジェクトを行うというもので、ヴェトナム政府の第8次国家計画のなかの、農村経済の発展戦略としての手工芸品の生産促進に即したものである。ヴェトナムでは、何を伝統の工芸品と呼ぶか、それはどこで誰が、いつ頃から、どれくらい作っているか、材料は、流通は、といったことが系統立てて調査されたことがなく、今回の調査では、それらをまとめてマッピングすることも目的の一つにしている。その他、観光資源としての工芸村の充実もある。3年にわたり、61州から11品種の工芸品について調査する意欲的なプロジェクトであり、去年よりヴェトナム政府のMARD(農業地域開発省)が中心となり取組みが始まっている。

セミナー、ワークショップの詳細はここでは省くが、向こうの新聞に紹介された記事から、ヴェトナム手工芸事情や、このプロジェクトに寄せられた期待、問題点などをお伝えできればと思う。
タブロイド判の英字新聞『Viet Nam News』から、いくつかの記事を紹介し、感想を記したい。

2002年6月30日付 Sai Gon Giai Phong発「工芸村で働く1000万人」

“6月29日、ホーチミン市において、JICA協力のもと、MARDによる『ヴェトナムにおける工芸および工芸村の振興と開発』についてのワークショップが行われた。”とあり、データとしては、“ヴェトナム全土で、1450の工芸村があり、そのうち伝統的なものは300。約4万戸、地域労働力のほぼ30%にあたる1000万人が就業している。その収入は農業従事者の3〜4倍。工芸村の利点は、職業の創造、収入増加、可能性の創出、文化の保存など。しかし、製品は決まりきったものが多く、国際市場には受け入れられにくい。90%は国内で消費されるが、安価な輸入品に押されている。問題点としては、経営能力の欠如、稚拙な技術、インフラ不整備、運営組織の不備、政府の政策の不適切や非効率などがある。”と分析する。

今回のセミナーで基調公演を行った千葉大学の宮崎清教授の言葉として、“日本の工芸村も同様の問題をかかえていたが、正しい方向を見い出している。ヴェトナム手工芸も、伝統ある工芸村から選りすぐった製品を海外に紹介してゆくといいだろう。工芸村を発展させるためには、マーケティングを行い、地方に小〜中規模の企業を興し、人の育成に努め、工芸村の振興を図り、地場産業育成政策を刷新する必要があるだろう。”とのコメントが載せられている。宮崎先生は、20年近く前から福島県三島町が、雪深いだけの過疎の“なにもないまち”から“恵みゆたかなまち”へと変身をとげた仕掛け人、頭脳、求心力となった人物である。
宮崎教授によるものづくりの“こころ”を説いた講演は、ヴェトナムの人々に、やればできる、という希望の種を撒いたことは確かであるような気がする。

7月1日付 Ha Giang発の記事

Viet Nam Newsより転載


古い布

新しい布
ヴェトナム最北の州Ha Giangは、国内でもっとも貧しい州であり、生活の最低レベルをあげるための各種の政策がとられている、とある。
“昨年は835キロと323キロの道を整備した。火事を出しやすい草の屋根を改良するためファイバーボードセメント板が昨年までの15000戸に続き、今年も5000戸に支給された。水槽の充実を図ることが衛生的な生活には欠かせないため、渇水期の水を確保するための水槽を作る資金と、700kgのセメントが23000戸に支給された。家畜購入の資金援助や、牛用のワクチンが支給され、現在では30万頭の家畜を飼っている。地域の60%に電気が通じ、その内の75%にはテレビ、ラジオが入った。飢餓レベルにある家族が60%から25%に減少。5年間で10.3%の経済成長率を達成した。”
とのデータが記されている。ということは、電気がきていないところがまだ40%もあるということだ。水槽が置かれているということは、水道が来ていないということだ。山の民は53種族もあるという少数民族で、それぞれ固有の文化をもっている。優れた手仕事を残しているのも彼らだが、昔の手技が急速に失われつつあり、観光用を意識したもの作りが浸透しつつある。電燈のない暗い室内では、化繊の極彩色の糸で織られた布のほうが、昔の地味な草木染めより美しいと感じるのは当然だろう。お嫁入りに持参する布団カバーとして、心を込めて一針一針刺したものと、定期的に訪れる商人がまとめて買い上げてゆく“商品”を作るのでは、仕上がりも違うのは、彼らの置かれた環境を思えば無理からぬことだ。効果的なしくみを作ってゆくしかない。
今回興味深かったのは、地方の手工芸生産担当役人が200名近くも参加したことであった。作り手の意識が向上するまえに、どうやらこうした担当指導者たちの意識や知識、品質やデザインへの感心が高まることが先決であろう、との印象を得た。政府発表の言葉からはほとんど聞こえてこない、彼らの切実な声のいくつかをご紹介しよう。

7月2日付「工芸村への方向づけを求めて」

表彰式
MARDの下部組織の代表の言葉として、“政府は地場産業振興のための施設や政策を効果的に機能させるシステムをつくる必要があると同時に、中央および地方組織におけるである有機的な運営が必要である。地方は例外なく、地場産業開発のマスタープランを欠いている。土地活用、訓練、投資などついての政策がない。”また、“我がほうの組合では3000人を雇用しているが、国からは資金援助も訓練の機会も受けることができない。政府は新しい企業に対しては援助を行うが、我々のように古くから努力しているところへの支援を考えてくれない。”とはラタン・竹製品を制作している女性組合長の発言である。

ホーチミン市産業芸術大学の副学長ヴァンさんは、 “良質の工芸品を作るためには職人の技術が不可欠だ。ヴェトナムの職人たちは優れた技を持って入るが、専門教育を受けたことがないので不完全な品物しか作れていない。品質が不揃いであったり、美的に劣っていたり、外国製品を模倣するのでばらばらの印象を与える。政府は3〜5年間の集中技能訓練計画を実施するべきだ。また、伝統ある工芸村の職人たちは、父から子へと受け継がれ、家族以外の人には教えないので、途絶えてしまった工芸品も多い。”と現状を分析する。
また、ある役人は“工芸村の製品は、職人がデザインするので、知識不足を原因とするデザイン上の問題ある。”と職人が優れたデザインを出してくることの難しさを指摘する。
これに対し、前出の宮崎教授は、“作った人は、その品を自分自身で使ってみてください。使ってみることで新しいアイディアが湧いてくる。伝統的な工芸品としての美的水準を考える前に、ヴェトナムの伝統的な特徴は何かということを考えてみる必要があるのでは。”とも提案する。

7月3日付 「工芸村が雇用を創出する」

Viet Nam Newsより転載
“ヴェトナムには現在4万を上回る手工芸企業が存在し、1450の工芸村がある。木彫、陶芸、ラタン、竹、染織、刺繍などである。1000万人が就業し、30億USドルを売り上げ、輸出額は3億USドル、2005年には9億USドルを上回ると見込まれている。伝統工芸村は地域の雇用を増し、農家の年収を押し上げ、市場を活性化する。さらに、伝統文化を伝承し、国の文化やアイデンティティを生む重要な役割を果たすだろう。”とする一方、“資金不足、器具の不備、限られた市場、劣悪なインフラなど、困難も多い。工芸村のたった4割がまともに機能しているに過ぎない。”とも記す。さらに、“多くの製品は魅力に欠け、環境汚染、技術をもつ職人の不足など、深刻な問題も見のがせない。”とする。これに対し、MARDは、“現在ある海外市場を維持し、新しい市場を開拓し、7ケ所のセンターを設立し、国内外で展示会を催し、インターネットを通じてのPRを行い、技術訓練の機会を設ける”と未来像を描く。立派な絵を描いてみせるのは、いずこの政府も同じのようだ。


おわりに: 
今回ODAの事業に参加するに当たり、ネット上でASEAN諸国と日本のODAの関係を調べてみると、日本は世界42カ国に対して最大援助国となっており(1998年統計)、ヴェトナムは日本の二国間ODA供与国のなかで、インドネシア、中国、タイについで4番目である。彼らが受ける援助の54%が日本からのものである。アジアの国々は、日本の援助を大歓迎している。タイ、ヴェトナムをはじめ、ラオス、ミャンマー、カンボジアなどの国々も、非農業分野として、手工芸品を有望な外貨獲得手段とみて力を入れ始めている。日本がその経験や制度を参考にしてもらい、具体的なノウハウを示してゆくのは意味のあることだと思う。市場経済が発展しているところがある一方、まだ政府、地方自治体が仕切らなければ一人立ちできない状態のところも多い。いずれにせよ、息の長い作業となるだろう。援助を受ける人々とのコミュニケーションをもっと深く、もっと明解にとることに、知恵を働かせたいものだ。顔の見える援助こそ、二つの国がお互いに理解し評価しあう方法だと思う。
長くなってしまった旅行記を最後まで読んで下さって、ありがとうございました。

(よこやまゆうこ)

追記:
このレポートをまとめた直後の7月16日付産経新聞朝刊に、『川口外相「ODA庁」新設検討 外務省から分離、透明化図る』との記事が載った。平成14年度の一般会計予算で約9100億円が計上されているODAだが、以前から現地での援助金の不正使用があったり、被援助国支援にならず日本企業の営利優先との指摘があったり、融資過程の非公開などの不透明性がいわれていた。せっかく私たちの税金が使われるのだから、納得のゆく使い方をしてほしいものだ。そして参加する専門家たちのエクスパティーズ(専門知識技術ノウハウ)が、効果的に発揮されるような取り組みになることを期待しよう。


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