訳あって9月から3ヵ月の予定で南フランスを放浪することとなった。そして、早や3週間近くが過ぎた。蝸牛のように全荷物を背負っての移動はやっかいだ。小型シトロエンは重さに喘いでいる。9月始めの頃は夏の陽射しが眩しかったプロバンスも、20日を過ぎて、秋めいてきたと思ったら、昨日、今年一番のミストラルが吹いた。ミストラルはシベリア発アルプス経由、プロバンス行の冷たい強風のことだ。人にも聞き、本でも読んで恐れていたミストラルに、こんなにも早く見舞われるとは!。土地っ子によれば、ミストラルがくる前は分かると言う。空の色が透き通り、空気がパリ−ンとしてくるという。この感じがそうか!と思った時にはもう、ミストラルはプロバンスに来ていた。それも、逗留先はセザンヌの山として知られるサン・ヴィクトワール山麓の山小屋。吹き上げてくる風は咲残ったラベンダーをいたぶり、パラソルのように広がった松を揺さぶり、岩山にしがみついている潅木を引き剥がさんばかり。
太陽の強さと裏腹に、骨まで凍てつかんばかりの冷たさだ。土地っ子は、こうも言う。ミストラルは3日吹いたら6日、6日吹いたら9日吹くのさ、と。つまりいつ止むかは風次第というわけ。昨夜の月光は、異様なほどに明るかった。
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