ムスティエの南にはGrand Canyon du Verdonと呼ばれる、その昔の地殻運動を想像させる絶景の峡谷が開けている。ムスティエは、渓谷への入口の町だ。ミシュラン・ガイドブックによると、2002年現在のムスティエの人口は625人とある。しかし人が住んだ歴史は古く、3万年前とされている。1440年以降はフランス国王による直轄地となり、焼物にとって大切な良質の土、水、燃料となる木の3つに恵まれていたために、陶器作りが根付いたともいわれている。しかし、どのようにしてこの地で焼物作りが始まったかは諸説あるそうで、13世紀にスペインの影響でマルセイユに最初の窯が築かれたことが文献にあり、その頃ムスティエでも陶器作りが始まったと記されている。
しかし、引き続く戦乱で乏しくなった国庫を守るため、ルイ14世によって贅沢禁止令が出されるとともに、中国から輸入された青磁の流行にのり、ムスティエでも染付けの技法が研究された。
少し歴史が長くなったが、ムスティエでは現在、14工房が生産しており、そのなかで土産品でない上質のものを作っているのは3軒。工房を見せてもらったBONDIL
a Moustiers社は、皿を型から作る作業を手で行っている唯一の工房である。ということは、その他の会社は機械的に成形をしているということだろう。切り立った崖を背景に佇むボンディル社の工房では、4、5人の職人さんが仕事をしていた。その工程は、木版の型から生地を起こし素焼きする。素焼きされた皿に、炭粉をガーゼでくるんだタンポを模様に沿って穴を空けた型紙の上からポンポンと叩いて下絵をつける。炭粉の下絵に従って色をつけたり、輪郭に色を挿したのち、再び窯に戻す。
チョークを溶かしたような粉っぽい蚰薬がやさしさのある白を生み、全くのフリーハンドではないけれども、手によって描かれた線や面の自然のゆらぎがこの陶器の特徴といえそうだ。全面に絵付けされたものは飾り皿として楽しそうだ。