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南フランス滞在記 〜その3〜 GALLOの作る鉄細工の家具


南仏便りその3では、鉄をたたいて家具を作る工芸家をご 紹介しよう。
Juen Carlos Galloの家具を見たのは、「その1(Link)」でご紹介し たサンヴィクトワール山のメゾンドテルDomaine Gentyだ。 無駄のない単純な線と錆色の鉄の表情が、ちょっと日本的な静けさを感じさせる、抑制のきいた雰囲気をもつ家具だった。宿の亭主に尋ねるとAix-en-Provenceに工房をもつ Galloという人物に作ってもらったという。
地図をたよりにAixの裏道にガロの工房を探し当てた。いきなり“コンニチワ!”の声に出迎えられびっくり。ガロ は優しそうな目をした小柄な人物だった。鉄を打つ作業を する人というので、恰幅のいい大きな男性を無意識にイメ ージしていたかもしれない。店のなかはところ狭しともの が置かれ、一見して乱雑である。目を凝らして見れば、鉄製のフレームにガラスのトップが置かれた小机やランプ、 壁にも鉄のフレームをもつ鏡や棚がかかっている。何と、鉄製の鳥かごにガラスがはめ込まれ、金魚が一匹!。

 


 



“コンニチワ!”のわけはといえば、ガロはAixの町の日仏グループに入っていて、日本語を習っているというのだ。“トモコさん”や“ヨーコさん”とお友達なのだという。 ガロと日本との関係は1998年、コスチュームデザイナ ーの毛利臣男さんが企画した『100仮面』という、東京 スパイラルビルでのイベントに声をかけられ参加したこと に始まった。いきなり毛利氏が店にやってきて話しが始まったという。そして彼は虹色の仮面を出展した。そこに込められたメッセージは、“子供の心に黒は存在しない。虹の7色が作る影は人類の寛容を象徴する”、という平和への願いなのだという。ガロは平和主義者なのだ。
70年ものという蓄音機にSP版を置いたと思えば、おもむろに流れてきたのは、何と、高橋掬太郎が歌う「酒は泪かため息か」である。しゃーしゃーという古めかしい音と ともに、石造りの建物に“〜心の憂さの捨てどころ〜〜”の古賀メロディーが響く。身体も心も傾けるようにして聞き入るガロ。心優しい平和主義者ガロにとって、最近の世相は憂れうべきことが多すぎるのだろう。
かくして、何となく彼の人となりがわかりかけてきたところで、やっと家具の話。15年ほど前に鉄で家具を作る仕事を始めたが、それ以前はアンティーク家具の修復をしていたという。手作りのガーデンテーブル、チェア−がフィガロなどインテリア誌にも紹介され、注文してくるひとも多いという。
余談になるが、今回の旅で注目しているものに、古い館の螺旋階段の美しさがある。玄関を入るとちょっとした空間 が開け、石の階段がゆるやかな螺旋をえがいて上がってゆく。その手すりが曲線模様で装飾されたたたき出しの鉄製 なのだ。重々しい石の建物にレースの効果が軽やかさと優雅さを生んでいる。英国の館にあるような、深い光を放つ重厚な彫りのほどこされた量感ある木製手すりもいいが、 上へ導かれる視線を遮らず、パターンによって変化に富む 表情をもつ滑らかな曲線の手すりは開口部の少ない空間に 開放感を生む役目をしているようだ。




 



さて、ガロの仕事の仕方は、店にあるものをサンプルとして注文制作することが多いが、自分でデザインしたものを さりげなく店に置いておいたりする。さりげなく、というのは、混雑した店の中に、新作は際立って置かれているわ けではなく、よく見ないとまぎれてしまうように置かれて いるからだ。この辺も彼らしい一面なのだろう。シンプル なものとともに、お茶目なデザインも彼の持ち味らしい。 ランプの傘飾りに鉄の花をつけてみたり、繊細に打出した可憐な花束がついているものもある。
ガロの話からは、郊外の作業場でアシスタントを使いながら、納得のゆく仕事をマイペースで続け、生活を楽しみながらもの作りをしている様子が伝わってくる。“あくせく”というライフスタイルほど、プロバンスに似つかわしくないものはなさそうだ。(2002/11 よこやまゆ うこ)

   


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