ミラノ市内のフランコ・ジャカッシの店には、 床から天井までびっしりと古めかしげな箱が積
み上げられている。その中には、19世紀中半以降からのボタン、ビーズ、テープ、レース、 服地などが納っている。60〜70年代の衣服
もところ狭しと通路にあふれ、シャネルのラインは初期の作品からすべて集められている。フランコ自身も、ヴィンテージの布地やボタンを上手にデザインしたオリジナルのバッグを作り、ヴィンテージものの流行に一役買っている。フランコの店には、流行を先取りするミラノっ子ばかりか、世界中から注文が舞い込むという。
ちょうど、ミラノ中央駅のギャラリーで彼のボ タンコレクション展をやっていた。ボタン展などというものが成立するのだろうか、と覗いてみたら、何と、めくるめくボタンの世界がそこ
には出現していた。たかがボタン、されどボタ ン、とでも言わんばかりに。
ナポレオン1世が戴冠式に身につけた服のボタンと説明されているものもあった。私の興味を 引いたのは、その素材だ。ありとあらゆる素材
を使い、技を尽くして、直径2、3cm足らずの 円板状のうえに、独創の限りを尽くしている。 各種金属、ガラス、アルマイト、木、竹、木の実、七宝、磁器、琥珀、象牙、革、織布、テー
プ、貝、石などなど。白薩摩焼のボタンもあっ た。きっと、当時の商社を通じて注文をうけた 薩摩焼の陶工たちが、小さなボタンに絵付けをしたのだろう。さらに、展示はテーマ毎に分けられている。例えば、具象的なデザインのもの
は、太陽、月、花、動物、女性の顔、犬、猫、 昆虫、といった具合。時代時代の精神や世情、 流行を反映した図柄をすかさず取り込み、服自体の雰囲気をもり立てようとしている感じが伝
わってくる。これらのボタンに傾けられた情熱、 想像力、手技、デザイン力などが、ヨーロッパ のファッションを支え、発展させてきたのだろ
う。凝縮された小さな平面に傾けられた2世紀にわたるエネルギーに圧倒された展覧会だった。 まずは、写真をお楽しみ下さい。
フランコ・ジャカッシのサイトはこちら[LINK]です。ヴィンテージドレスが見られます。また、季刊『銀花』に、ボタンだけを常設展示する珍しい博物館「ボタンの博物館」が、東京・日本橋浜町にある、ともあるのでお知らせします。
(2003/12 よこやまゆうこ)
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