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工房探訪その6「箔の達人 谷 喜和子さんを訪ねて」


染織の作り手を訪ねる工房探訪シリーズ・その6は、東京で糸目友禅と箔置きの技で着尺や帯を制作する谷 喜和子さんです。

箔置きとは、あの、極薄の金箔、銀箔を絹の上においてゆく技です。箔は金沢箔が有名ですが、その厚みは1万分の1〜2ミリ。竹製のピンセットでつまみますが、あまりの薄さに静電気ですぐにくしゃくしゃになってしまう、なかなか扱い難いものです。
谷さんは女子美を卒業後、友禅の師につき、誂え友禅といって、お客様と相談しながら色や絵柄を決めてゆく一点ものの仕事でこの道に入りました。ところが、独立後の90年代、仲人さんや、お嫁さんの母親が、結婚式には留袖でなく洋服で臨みたい、との要望が増えるようになったため、留袖にも見劣りのしない格式と豪華さをもった服地をということで、初めて金銀箔を使うことを試みました。上質の絹地に箔を置いた広幅の布で仕立てるドレスは、女優さんやタレントさんたちにも気に入られ、数多くの注文が入りました。この経験から、着尺や帯ばかりでなく、着物を着ない人にも箔の美しさを楽しんでもらいたいと、バッグやショール、アクセサリーなど、今の生活で使える物を作ってデパートで販売するようになりました。

 

   


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箔には、40種ほどの色をもつ色箔というものがあります。箔にこんなにもたくさんの色があったとは驚きでした。さらに、焼き箔といって、銀箔を焼いて自然の模様を出したものもあります。谷さんはその豊富な色の箔をさらに小さく切り、数色を混ぜた複雑な色の箔を作ることを考え出しました。切るといっても厚さ1万分の1ミリの箔を、10ミリ四方ほどの大きさにするわけですから、どうすれば自然な形でふさわしいサイズに切ることができるか、試行錯誤の末に編み出した方法は、何と、金笊。適当な大きさの目の金笊に箔を落とすと、その目を通して笊の目の大きさの箔がぱらぱらと落ちるというわけです。何という発想の自由さ。主婦としての生活感溢れる視点に感動してしまいます。谷さんは、小瓶に入れ分けた60色ほどの箔片のなかから数色を混ぜ、望みの配色にして使います。こうすることで、光ったり豪華に見えたりするだけの箔ではなく、光と色に奥行きとニューアンスが出て、アンティークの雰囲気を醸し出すことさえも可能になりました。アイディアと工夫の産物というわけです。

 

 



箔置きを見せていただきました。まず、絹の上に渋紙の筒に入れた糊と銀粉を混ぜたものを絞り出し、下絵の上から輪郭を描きます。次に、箔を置きたい部分に筆で糊をのせ、その上に竹のピンセットで箔を切りながらのせてゆきます。簡単そうに見えますが、小さな箔片がすぐに縮んで丸まってしまい、跡形もなく消えてしまうのです。一瞬息を止めて、一方向にすばやく移動して糊のうえに着地せるのがコツです。そして、はみ出した箔をとり除くと、下絵通りの箔置きができあがります。
そして、丁度、糸目友禅の工程を知る素材も見せていただいたので、簡単に順を追って見てみましょう。

まず下絵にそって糸目糊をおく。その上に伏せ糊といって餅米に糠を混ぜたものを敷く。

 



こうして模様の部分に地色が乗らないようにブロックしてから、刷毛で引き染めをする。これを蒸して伏せ糊を落としたら、いよいよ友禅。絵を描くように色を挿してゆく。絵が描き上がったら溶剤で糊を落とす。金彩は最後の段階で行う。さらにこの上に刺繍を入れることもある。



谷さんの場合は、屋内に13メートルを張れないこともあって、着尺の引き染だけは専門の職人さんにお願いするが、絵羽にしたものなら、すべての工程を自分で行います。同じ糸目友禅でも、職人さんの仕事になると、効率のよい分業が多くなります。下絵を描く人、糸目糊をおく人、伏せ糊をおく人、色を挿す人、という具合に。このとき、複雑な分業プロセスを取り仕切るのが問屋さんであり、京都では"悉皆(しっかい)さん"と呼ばれる立場の人なのですが、この話は、いずれどこかで。どうやら一筋縄ではゆかない世界のようなのです。

谷さんの活動は個展やグループ展が中心ですが、将来はデパートの仕事を減らし、友禅の個展を増やしてゆく計画だそうです。連絡先は:03-3771-6905。

(2004/6/5 よこやまゆうこ)


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