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『布づくし・展』に参加して下さった染めと織りの作り手たちのなかで、とてもユニークな帯で参加して下さったのが細井 賢さんでした。"今回は着尺と帯が中心で、、、"と説明すると、"パッチワーク風の帯です"とおっしゃる。どうしてもイメージが湧かなかったのですが、とにかく出品して頂くこととなりました。果して、到着した小包は、帯一本にしては大きな箱、その割には軽い。わくわくしながら包みを解くと、そこには、美しい色がふんわりとつぎあわされた、見たこともない帯がありました。
それは、お太鼓と前の部分だけがパッチしてあるのではなく、5m余の帯全体が繋ぎ合わされた絹の小片からできています。異なる階調の紫で染め分けられた部分、グレーの濃淡に深い紅が並べられた部分、ヨモギ色やコバルトブルーの深い色がアクセントとなっている部分、という具合に、大胆な色が調和をもって並べられています。
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横の棚を見ると、ぴっしりと積まれている色糊の箱。500個はあるという。つまり、500色のなかから染め色を選んでいるというわけです。
さらに、絹地の風合いもさまざま。経緯の畝がしっかりした絹、緯糸が際立つ絹、静かな平織など、さまざまな表情をもつ絹の布が使われています。これらの布の多くはインドの絹です。工房のドア一面に、布のサンプルがとめてありました。この帯は、細井さんのタクトのもと、色と布の風合いが遊び心いっぱいに音を奏でているかのような作品です。
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細井さんは神戸出身、東京造形大学卒。染めに興味をもったきっかけは、長野に住むお祖母さまが織られた着尺を譲り受け、それを型染にしてみた経験でした。
細井さんの布づくりは、コンセプトから始まります。今の時代に自分が感じること思うことからテーマを見つけます。例えば、ビートルズや坂本竜一の音楽に触発されてイメージが生まれます。30才代であった90年代の仕事はまるで抽象画のよう。鮮やかな色や落ち着いた色が重なりあい、深みのある、一見、描き込まれた油絵のようなテキスチャ−が絹布に染め出されています。自分の仕事の在り方は"アートと工芸の間"とご本人は表現されます。この方向がさらに洗練され、着物や帯としてこなれたものになれば、個性的に着物を着たいと願う女性に、新しい選択肢を与えてくれそうな予感がします。伝統の技が、見事に新しい感覚の布に変身し、しかも、どこにも奇を衒った印象がないことが注目すべき点だと感じます。
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さて、その技法。帯には、浸染をはじめ、刷毛で色糊を置いたもの、型紙を使ったもの、木片を使ったブロックプリントなどの捺染技法が使われています。それぞれ、ニュアンスの異なる染めが得られます。ブロックプリントでは、まず、木片に指で色糊をたっぷりと塗り、布に押しつけます。糊は防染するので、糊が置かれていない部分に地色をかけます。その後、蒸して熱処理により色を定着させます。
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細井さんは、日頃は帯を専門に作っているわけではありません。染布展を開いたり、洋服に仕立てたり、同窓生の菜穂美夫人の手でバッグになったりもするものもあります。もっとたくさんの仕事が見たいものです。次の個展は見逃せません。細井さんの連絡先は、045―892―5748
(2004.6.7よこやまゆうこ)
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