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工房探訪第16弾『久留米絣を守るひと 山村 健さんを訪ねて』

『布づくし・展』の出展者を訪ねる工房探訪シリーズその16は、久留米絣の4代目、山村 健さんです。
訪問した9月の初旬は、山村さんの住む広川町でかすり祭が開かれるとの情報。それは見逃せない、と訪九。ところが、久留米の工芸関係者に聞いても、“かすり祭?聞いたことない”の返事。ちょっと心細く感じつつ西鉄バスに乗り込んだのでしたが、心配無用。バスには藍染のチョッキや帽子をかぶったご婦人づれが4、5組も。会場は一大物産展の様相を呈し、食品に並んでもっぱら絣の洋服や小物類が所狭しと販売されていました。
ちょっと戸惑いながらも、工房探訪のシャトルバスに乗り込み、やっと目的の山村さんの工房に到着。それにしても、すでに14回を重ねるかすり祭であるというのに、久留米の町にもバス乗り場にも、ポスター一枚見かけなかったのは、いかなる事情によるものか。かすり祭実行委員会副会長でもある山村さんの説明をお聞きして内状を理解。最盛期には300軒あった織元が、現在は40軒ほど。そのうち、手括り手織りしているところは、たったの12件に激減しているという、この久留米絣自体の問題そのものであると判明。昼食時にはシャトルバスが止まってしまうという不便も予算不足の故。ご婦人方は、稔る稲穂を見ながら一時間あまりも道ばたで忍耐強く佇んでいました。

久留米絣の発祥は、1788年生まれのわずか12才の少女、井上 伝(でん)が、偶然のようにして絣模様を編み出し、生涯をかけてその技を教えたと言い伝えられています。その辺の詳しい話は、
http://www.kougei.or.jp/crafts/0121/m0121.html
(英語版はhttp://www.kougei.or.jp/english/
crafts/0121/f0121.html
)をご覧下さい。

 
山村さんの工房には、藍瓶が12あります。藍は徳島の“すくも”を使用。驚いたことに、最近では趣味で藍染めをする人が増え、需要拡大した“すくも”の価格が高騰しているとのこと。素人の趣味が、プロにとっては死活問題となっているのだそうです。
長男である健さんは、4代目として家業を継ぐのがあたりまえ、という感覚で仕事をおぼえました。大木町からは1989年に亡くなった松枝玉記が人間国宝となっていますが、健さんも日本工芸会正会員として、すでに連続6回の入賞を果しています。でも健さんはご自分を“職人”と思っていて、多少名前がでてきたからといって品物に高値がつけられるのはとても違和感がある、とおっしゃいます。高級呉服の扱いにはなりにくい藍染め木綿のつらさがあります。


健さんの絣の特徴は、括りと染めをくり返すことで生まれるなめらかなグラデーションです。ぼかしの部分は3、4回に分けて染め、全体では25〜30回も染めます。藍で染めた糸は空気に触れると見る見る色が変化してゆきますが、瓶の上で絞った糸の束を頭上に振り上げ、瓶のすぐ脇の土に叩きつけます。こうすることで糸の一本一本が空気に触れ、好ましい発色が得られます。
健さんのところでは、染めと整経までをしたものを、外機に出します。現在の織り子さんは4名。4名が月に各6〜10反織るとしても、月平均30反ほど。月8反織るとして、週2反。13m余りの着尺を3日に1本織るには、かなりの腕が必要です。
工房見学のお客さんたちにベテランの織り手さんが実演して見せてくれましたが、彼女曰く、“昔は絣は一間(1.8m)離れて見るのがいい、と言われたけれど、今は虫眼鏡で見る。” 模様の微妙なずれが味の絣であるのに、経糸緯糸の絵がぴたりと合っていないと手が悪い、といわれる。この価値観の変化を彼女は言いたかったのでしょう。手仕事の健康な大らかさが評価されず、機械のようにきっちりした仕上げを求める現代のこころは、ゆとりとか寛容さが足らなくなっているのでしょうか。工房に足を踏み入れたときに嗅ぐ藍の匂い、ぶくぶくと発酵する藍瓶を覗けば、そして、投杼を使って織るところを一度見れば、200年の伝統と、それを継いできたことの素晴らしさに素直に感動してしまいます。そして、本物を着てみたい、という気持ちになります。



健さんには息子さんがいます。最近、仕事を手伝ってくれるようになったと喜ぶ反面、まだまだ本気ではないと心配顔も。父親の背中を見て、絣作りの面白さを息子さんが体感するときが、きっといつかくることを信じましょう。
(藍染絣工房の連絡先:0943-32-0332)

(2004/11/よこやまゆうこ)


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