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工房探訪第17弾『奔放な型絵染を創る河野康子さんを訪ねて』


型絵染といえば、人間国宝にもなり昭和59年に亡くなった芹沢介が燦然と輝き、他の追随をよせつけないといってもいい存在です。河野さんは、まさにその巨人の絶頂期に、臆することなく門を叩き、弟子入りを申し入れたのでした。“絶対、この人の弟子になりたい”との情熱が通じ、2年間の和紙染めアルバイトののち、晴れて内弟子となることができました。東京蒲田にあった『芹沢染紙研究所』の女子寮で暮らしながら、常に20人から30人いた内弟子の新入りとしての生活が始まりました。とはいえ、先生が手とり足とり教えてくれる環境ではなく、彼女はまず、毎朝明るい声で挨拶することで先生に顔を覚えてもらえるようになったといいます。
内弟子の仕事は、餅米と米糠を練り上げて防染糊を作ったり、豆汁を作ったりの重労働が朝6時から5時半まで続き、夜だけが自分の研究のための時間。序列や秩序が残る内弟子制度のなごりがあったのでしょう。芹沢氏は型絵染めのこととなると辛らつで容赦ない言葉を発する人物であった、と当時を思い出して河野さんは言います。しかしその反面、弟子たちには“美しいものをたくさん見なさい”と教え、ご自身も常にスケッチブックを手もとに置き、風景、花、道具、人物などを写生していたということです。芹沢は沖縄古来の紅型を再現した代表的な仕事をはじめとして、おびただしい数の作品を残しましたが、そのなかでは比較的目立たない仕事かもしれませんが、以前、目をひいた作品があります。『花よりも』と題された昭和41年の作品。4cm四方の小さな和紙の一片に、職人の仕事する形を描いた44点から成るシリーズです。職人の特徴ある動きの一瞬が適格な線で切り取られ、染められており、その技に驚嘆したことがあります。正確なスケッチと、型紙に彫るための図柄にするときの形のつかみ方には独特のものがあります。小さな仕事のなかにも完璧を求めることこそが巨匠なのだ、と教えられた気がしたものです。晩年、空海をテーマに制作していたとき、空海の顔が思うように描けない、と苦心している師の姿を河野さんは見ていたそうです。

 
 
   
河野さんの20代から30代の12年間は、研究所で型絵染に専念する生活でした。フランス、アメリカなど、師の海外展には男性の助手らとともに参加し、世界的にも一級のアーティストとして認められた芹沢の存在を身をもって感じたことも大きな収穫でした。そして88歳の師の死去をもって研究所は解散。最後に残った数人の弟子たちと研究所の整理作業をするかたわら、ご家族から師の『沖縄風物詩』の復元を依頼され、色だしに苦労を重ねながら半年をかけて制作したことも、懐かしい想い出となっています。
そして、故郷の福岡県大牟田市にもどり工房を開設。36歳からの最スタートを切りました。修行時代から、日本民芸館展、国画会展などに入選し、その後の実力にも磨きがかかりました。特に、入門が許された翌年の日本民芸館初入賞は大きな力となりました。そのときの作品は大阪民芸館の永久コレクションとなっています。
 
   
河野さんの作品の特徴の一つは、自由な発想で絵のモチーフを選ぶということでしょう。見せて頂いた作品のなかにも、仕事に使っている刷毛を連続模様にし たもの、民芸調の椅子の続き柄、グランドキャニオンをイメージしたもの、また愛嬌あるムツゴロウが並んでいるのものなど、バラエティに富んでいます。
河野さんの将来の夢は、緞帳(どんちょう)のような大物を手がけることです。小柄な肉体のどこにそんなパワーを秘めているのかと思ってしまうほど、河野 さんの型絵染にかける情熱は本物です。
市の依頼で、大牟田の民話をテーマにした型絵染をスライドにした語りと手話の催しに参加したり、歌人のための私家本装丁の経験などから、今後はこれらの 分野にも取り組んでゆきたいと思っています。

 

  河野さんの部屋や工房には、芹沢の写真が掛かっています。彼女のなかでの師の存在の大きさを感じさせます。強く望んで弟子入りを許され、認められて教え を受けた師の作品集は宝物。創作に迷ったとき、また初心を忘れないようにと見ることはありますが、強烈すぎる影響力から抜け出し、自分の世界を作り上げ るのは大変な努力を要すること、とも。
河野さんのいつも前向きの姿勢と、芹沢に鍛えられた型絵染の技は、大きく花開くタイミングを待ちながら、力を溜めつつあるという気が強くしました。
河野型絵染工房への連絡先:0944-52-1267

(2004/11/よこやまゆうこ)


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