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工房探訪第19弾『楽しむ布づくり 寺井由紀子さんを訪ねて』


『布づくし・展』の出展者をお訪ねする工房探訪、その19は、さまざまな染め織りの技法を学び、多様な布づくりを楽しんでいらっしゃる寺井由紀子さんを、埼玉県羽生にお訪ねしました。
寺井さんの古い邸宅のお庭には、たくさんの柘榴が重たく稔っていました。柘榴の実をとったあとの殻を干したものは、黄色から茶色まで、美しい色に染まることを教えて下さいました。 今年一月に行われた新宿OZONEでの展覧会への寺井さんの出展品は、黄八丈の着尺一反だけでしたが、会場では、着物好きな方からのご質問が特に多かった作品でした。黄八丈の産地である八丈島からの出展ではなかったところが関心をひいたのでしょう。
というわけで、寺井さん多様な布づくりを見せていただきました。


(B)
 

(A)
 
寺井さんのお父様は、あの俳句の巨人とも称される高濱虚子の門下生、実兄の寺井力三郎さんは一水会に属し、若い頃は小磯良平の助手を勤めていたという油絵画家。そうした環境に育った寺井さんも大学では美術を専攻。ところが、民芸店に全国の民芸品を紹介する仕事をしていた人物と出会い、そこから偶然、染織への道へ導かれることになりました。その人物の紹介で、染織作家、柳 悦博氏の弟子井上恵美子さんに染織の基礎を習い、そして現在もあしかけ15年通っているという、東京下北沢の馬場あきさんの染織工房で、新しい織の技法や色だしの研鑽を続けています。まだ習うことがあるのかしら、と思ってしまいますが、学ぶことはまだまだ多くあるとおっしゃいます。そして、工房の仲間たちの作品にヒントをもらったり刺激を受けたりすることも、寺井さんの創作の大切な一部になっているようです。「織り馬場と50人の仲間」展が2005年1月13日〜18日まで、渋谷文化村で開かれる予定だそうで、それに向けた作品作りの真っ最中ということでした。

(C)
 

(D)
   


こうしたバックグランドと環境のなかから生まれる布たちは、実にバラエティに富んでいます。何枚かの特徴ある布を見せていただきました。
例えば、昼夜織と呼ばれる広幅の服地(A)。経糸は桜を染め重ねた絹糸、緯糸はカシミア糸のイルガラン(酸性染料)染め。絹のしっとり感とカシミア糸のふんわりした柔らかさが、軽くて暖かそうな服地です。表と裏が離れている袋織のふんわりした布(B)は、(A)と同じ染めと糸を使っていますが、打ち込み具合などの織り方で、まったく表情の違う布になっています。この辺が織りの妙味ともいえそうです。吉野間道の技法で織られた藍の濃淡染め(C)は、久留米絣の木綿糸を使用。細めの光沢が特徴の木綿糸です。間道(かんどう)とは聞きなれない言葉ですが、着物の世界では縞を意味し、古く渡来した外国産の縞織物をさす言葉です。
染匠用語の解説をしている興味深いサイトがあります:http://www.sensho.or.jp/kimono_encyclo/ kimono_words/framepage1.html
細かい縞の粋な絹布は藍の濃淡染め(D)。多摩地方の伏流水を使って糸づくりをしている東京シルクを使っています。
東京シルク?と思っ た方のためのサイト:http://homepage3.nifty.com/tamasilk/ tokyosilk.htm
仮絵羽になっているのはほぐし織と呼ばれる技法を用いたもの(E)。経糸を整経後、仮織りし、それを一旦はずして刷毛で思いの色を挿し、その後再び機にかけて織ります。刷毛引きの色のずれが、まるで絣のような効果を生む技法です。寺井さんの次女の晃子さんに羽織っていただきました。染めの華やさが、織られたことによって落ち着いた品格をかもしだしていて、織りと染めの魅力をあわせ持つ不思議な美しさをもっています。
寺井さんは、子育ての間もとぎれることなく続けてきた染織工芸を、これからもマイペースを守りながら、さまざまな布に挑戦し、2年に一度の発表の機会に備えたいということです。とても幸せな布づくりだと感じました。



 

(E)
   
帰路、寺井さんの従兄弟の秋谷知義さんの経営する着物のお店に連れていっていただきました。加須市で130年ほども続く老舗の呉服店です。全国から集められた珠玉と表現したくなるような着尺や帯。
沖縄の上原美智子さんの夏帯、出雲織の青戸柚美江さんの手紡ぎ手織、手絞り藍染めの着尺、幻の最高級越後上布など、まさに眼福の至りでした。こっそりお知らせすれば、大都市でのお値段より遥かにお求め易いそうです。都心から2時間かかっても、着物上手になりたい方は、足を運ぶ価値大いにありそうです。
寺井由紀子さんの連絡先:048-561-4427
柄自慢のでやまの連絡先:0480-61-0128

(2004/12/よこやまゆうこ)


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