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沖縄染織の過去と未来を結ぶ祝嶺恭子さんをお訪ねして


2004年度OZONEでの『布づくし・展 日本の布200選』の出展者をお訪ねしている工房探訪シリーズ、その24は、沖縄首里で創作と復元に携わっていらっしゃる祝嶺恭子さんです。祝嶺さんの現在の肩書きは「沖縄県立美術館準備委員会監修委員」。その他には、那覇市文化財審議委員、沖縄県立芸術大学客員教授、その前は沖縄県立芸術大学附属図書・芸術資料館館長という具合に、長いあいだ公的な立場で沖縄染織史の検証と振興を続けてこられました。作り手としては、国展、沖展に出展され、総理大臣賞を受賞。2004年度には、伝統文化ポーラ賞を受賞。そして、県指定無形文化財技能保持者でもいらっしゃいます。
人前にでることが何より嫌いだった内気な女性が、次々と重職につくようになった“運命的”ないきさつについてお話を伺いました。他県に比べ伝統工芸が数多くのこる沖縄ならではの、作り手と行政の関係も見えてきそうです。

     
 
     
    振り返れば、祝嶺さんが高校を卒業したのは、沖縄の若者なら誰でも本土の大学に行くことを望んだ時期でした。祝嶺さんも東京の女子美術大学図案科に進学。ところがここで最初の“運命的”なできごとに遭遇します。それは、工芸科の教室で行われていた紅型や絣の授業を覗いたことから、おりしも工芸科への編入者数名募集にチャレンジすることに。柳宗悦の甥で、女子美教授の柳悦孝氏は、祝嶺さんが沖縄の出身であることをとても貴重に思い、“特異な色彩感覚の持ち主”であることを主張、3度の面接ののち、応募者18人中2名の合格者の一人となりました。祝嶺さんが将来沖縄の染織と深く関わることへの柳先生の強い期待を、このときから感じていたとおっしゃいます。大学では染めと織りの両方を学びましたが、何を作っても、“これは沖縄のもの?”と問われるのには閉口したとおっしゃいます。実際のところ、当時は沖縄の染織については、何も知らなかったのだそうです。
卒業を機に、旅行気分で帰省したところ、地元首里高校では“とう、とう、とう”(よく来てくれた!)と迎えられ、いきなり教師として生徒たちに紹介されてしまいました。教師だけはしたくないと、その後毎年辞表を出すものの望みかなわず、やっと代わりの先生がくるまでに10年がたっていました。その間、結婚し、4人の子供にも恵まれ、教師をするかたわら制作に打ち込み、作り手としての実力を貯えてゆきました。
     
     
    祝嶺さんと沖縄の染織との関わりにとって大きな転機となったのは、1992年の文部省海外派遣による6ヵ月間のドイツ研修でした。ベルリン国立民族博物館には、1884年、時のドイツ皇帝が沖縄の美術工芸品の素晴らしさに感嘆し買い求めた543点のうち、戦禍を逃れたものが未調査のままで収蔵されていました。そのうち116点が染織品。この調査を希望されました。祝嶺さんは与えられた半年という短期間に、ほとんどの品の組織図を書き上げました。来る日も来る日も染め色をチェックし、ルーペを覗いて糸の本数を数え、方眼紙に書き込む作業に明け暮れました。
この経験を経て、これまでの創作中心の活動に復元という仕事が加わるようになりました。紙のうえの組織図を、実際の布に織ってみる必要があったからです。収蔵品のなかには、首里の花倉織と呼ばれる複雑な組織の織物が3点あり、そのうち2点は祝嶺さんにより復元されています。
この経験を通してたくさんの貴重な発見をしました。例えば、細い格子柄の中に絣が織りこまれた複雑な模様の手縞(ティジマ)という布があります。赤の経糸と藍の緯糸が重なった織り色は深いピンクですが、100年たって赤が抜け、藍が残っているのです。復元をするときは、作られたときの色を出すので、今残っているものとはおよそ色目が異なることもあるわけです。組織図はコンピュータが正確に作ってくれますが、色出しは知識と経験と目だけが頼りの作業です。
     
 
     
    日本の伝統工芸の将来を危ぶむ声が聞こえます。材料や道具を作る人が消え、生活を支えることができなくなれば職人はやめます。絶やさないためには、現代に受け入れられるよう変化して生きつづける智恵と工夫が求められます。しかし、いくら変化しつづけたとしても、迷ったとき戻ってゆけるところ、確認できるルーツがあることは、素晴らしいことではないでしょうか。祝嶺さんはこれからもライフワークとして沖縄の染織の復元をつづけたいとおっしゃいます。“誰でもが古い布の復元ができるようにしておかないとね”の言葉が心に響きました。
     
   
     
     
   
(2005/5 よこやまゆうこ)

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