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バッハの調べを織る足立真実さんを訪ねて


『工房探訪シリーズ・その28』京都編第2弾は、高野川沿いの川端通に添って少し北に上がった静かな住宅街の一軒家に独り住まいしながら制作に打ち込む足立真実さんです。東京の画廊での個展を拝見し、ぜひ訪ねてみたくなったのは、初々しさのなかに確信に満ちた仕事ぶりが感じられたからでした。
伝統の染織界にデビューするための一つの方法は、公募展に入選することです。足立さんのデビューも、日本伝統工芸会近畿展の「日本工芸会賞」を受賞し、注目を集めたときに始まりました。2002年、独立して3年目のことでした。大学の染織科ではファイバーアートに興味をもち、卒業後は中・高等学校の美術講師や様々なアルバイトをしながらも、何かの作家になりたいとの漠然とした夢をもっていました。能や茶道などの伝統に触れ、さまざまな出会いがあり、それらが焦点を結んだところが草木染であり、紬織着物の創作だったといいます。最初の受賞に続き、「草木染ビエンナーレ・in・あいち」での準大賞、2003年「日本つむぎ大賞新人賞」での大賞新人賞、2004年「全国染織作品展」での奨励賞、そして今春の「日本伝統工芸染織展」での京都新聞社賞と、続けて大きな賞を受けました。独立して以来、表現したいものはわかっていても技術が伴わないもどかしさを感じてきただけに、受賞は素直に嬉しいとおっしゃいます。賞をもらうことが目的ではないのはいうまでもありませんが、試行錯誤をくり返してきた努力が認められ評価されたと感じることができるのは、やはり受賞というくぎりなのでしょう。

     
 
  色を自由に操ることのできる化学染色をしている人から、植物染織では、思いどおりの色がだせないのでは、と問われることがありますが、着物にとって植物からの色合いは意味がある、と足立さんは考えています。季節の植物で糸を染め、色と柄のイメージを作ってゆきます。染材となる植物を求めて洛北の山に草木を採りにゆくこともあるし、剪定した梅の枝を持ってきてくれる人や、玉葱の皮をどっさりくれる料理店の友人など、人々の心遣いや好意を受けながら仕事ができていると感じています。足立さんのテーマカラーは臭木(くさぎ)からとれる上品な濃淡の水色、少し灰色がかったような青磁です。庭には、染材となる栗の皮ややしゃぶしの実、梅の小枝などが干してありました。
また、ファイバーアートでは、何でも自由に表現してよかったのに対して、着物という伝統のかたちのなかで芸術的な表現がしたい、と考えるようになりました。絵画、彫刻などの現代美術から刺激や影響を受け、“生活の中で出会う感動を表現する”ことを願いとしているとおっしゃいます。
     
    足立さんの染め織りのなかに“音”が感じられるような気がするのは、ヴァイオリンを弾いていたというクラシック音楽への造詣の深さが反映しているようです。そんな足立さんの作品のタイトルは「水上の音楽」「鹿笛」「FUGA」「アンダンテ」等、音を意識したものが多いのもうなずけます。又、能のように、“ないものが見える世界”にも惹かれます。もの作りをする人に共通して言えることかもしれませんが、古典に学び、現代アートに触発され、分野の違う人たちとの交流から刺激や発想の転換をもらい、いつも自分の感覚の触手を広げて積極的に取り入れようとする姿勢が、いつか自分のものとなって作品に反映してくるような気がします。ご自身の文章を引用すると、“ものごとを受け入れるということは、とても能動的なことだと思っている。何故なら、常に「こころ」を動かさなければ、ものごとは自らの内に入ってこないから。いろんなものを受け入れた後に全体として現れてくるもの、それが私の作品であってほしい、といつも願っている。”
     
 
     
    次々と作品が認められ、順風満帆かと思われる足立さんの口から、“とても不安”という言葉が発せられました。この方向でいいのだろうか、とか、経済的にやっていけるのだろうか、といった諸々の不安です。けれども、独立してからもアルバイトで生活費を賄いながらも、機を空けていたことはありませんでしたし、入賞を機に、さらに作る姿勢を正さなければとの気持ちにもなりました。東京展では、見ず知らずの呉服店が関心を示してくれたり、お客さんもつき始めました。“自分の世界をもって創作すること”“今でなくてはできない一品を創ること”を目標に、足立さんの活動はいよいよ正念場にさしかかってきたようです。プレッシャーを力にして静かな闘志を燃やしていらっしゃるのだと思いました。
   

(2005/5 よこやまゆうこ)

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