工房探訪・その31は、千葉県君津市のはずれの大きな自然の中で『長板中形』の染めを受け継ぐ松原伸生さんをお訪ねしました。猿がゆすら梅の実を食べにきて、牡鹿が角で木の枝を折ってしまうような丘陵地帯の一角に父と息子が工房を構えて20年。すでに日本工芸会正会員でありながら、今年の伝統工芸会染 織展では新人賞を受けてしまった、と苦笑される松原さんの自然体の仕事ぶりが印象的でした。 『長板中形』という聞きなれない名称の意味を知っている方は、着物に関心のある方に違いありません。『長板中形』とは、友禅や江戸小紋といった染め技法 の名称の一つで、長い板を使って、中くらいのサイズの柄を型染めするのでこう呼ばれてきました。江戸川区松島では昔から浴衣や手ぬぐいを型染めする業者 が多く、糊を置いた布を干すための四角い櫓が立つ風景は、松原さんの子供の頃にはあちこちで見られたといいます。重要無形文化財に認定された祖父松原定 吉の息子たちが「松原四兄弟」と呼ばれた父の世代に続き、伸生さんの世代は、従兄弟3人が松原家の『長板中形』を受け継いでいます。
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