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絵画のような京友禅を目指す野口惠美さんを訪ねて


2004年の『布づくし・展 日本の布200選』に緯糸にプラチナ糸を使った帯を出展してくださった野口惠美さんを兵庫県西宮市にお訪ねし、野口ワールドを拝見しました。
野口さんは、京友禅の着物や帯、そして独自のデザインの織りの帯を手がけています。作品には、若き日の野口さんがデッサンや絵画の勉強に打ち込んだキャリアが発揮されています。子供のころから絵を描くことが好きで、小磯良平らの指導を受け、関西洋画会の名門二紀展本展では史上最年少の入選で注目を集めてからは、次々と入選をくり返しました。京都芸大を目指して猛特訓を受け試験に臨んだものの、最終日に高熱をだしあえなく不合格。後に石膏デッサンでは首席であったことを聞けば、無念の思いが募ったことでした。このように、画家になっていてもおかしくない才能と実力が、野口さんの友禅の意匠に反映されているのは自然なことかもしれません。

 
    安政生まれの祖父は薩摩藩お留守居通辞(通訳)。16歳で極東オリンピックに水泳で出場した父は英国留学ののち多方面で才能を発揮。スキー、スケート、社交ダンスに優れ、シンクロナイズドスイミングを日本に紹介したり関西日本スエーデン協会を設立するなどした人物。母は宮城道雄に琴を習い、女性では最高位までいった人。芸術に対する野口さんの強い関心は、こうした家庭環境も相まって10代から育まれていたようです。野口さんの着物からは、当時、日本の先端をいっていた関西文化圏を背景に、豊かな家庭環境に育った多感な少女時代を彷佛とさせる華やかさが漂ってきます。
京都に師をもたず、ほとんど独学で友禅染めを習得したため、当初は慣習の根強く残る染織業界の狭き門にはばまれました。けれども、黙々と努力したかいあって、染織綜合展京都府知事賞、染織試験場長賞、京美染会賞、優秀賞、京都新聞社賞、染色協同組合連合会賞、和装産業振興財団理事長賞など、やつぎばやに受賞をくり返し、京美染会協同組合の理事に就任したとき、やっと京都に受け入れられたと感じたそうです。さらに1992年、日本伝統工芸会染織展入選を果し、以降、工芸展で2度入選しています。友禅染めは数多くの工程を経て完成します。野口さんはできる限りそれらの工程を自分でやりたいと望んでいます。そうすることが自分の創作意図を一番よく表現できると考えるからです。
 
 
野口さんのお話しを伺っていると、いちづに努力し、そこから生まれる自信にあふれていることを強く感じます。伝統の技と精神をもとに、現代感覚を取り入れ、日本の四季のうつろいと、女性ならではの細やかな情感あふれる意匠を融合させ、着物という制限のなかに表現したい。装おう人の品格をより高めるような着物をつくることが野口さんの最大の目標です。
若い頃の絵画の訓練と審美眼は、その図柄にも反映しています。綿密なデッサンを重ねたあと、心象的な表現に高めるための図案化をしますが、最も心を傾けるのは三次元の光を表現することです。春の光、冬の光、さまざまな光が、心象で浄化された「光」になります。具象、抽象を問わず、どの作品においてもこの「光」を表現することがすべてと考えています。
 
  野口さんの着物や帯の販路は限られています。それは、問屋を通さず、直接お客様に手渡すことを守っているからです。彼女の意匠、配色、技法的なこだわりを理解し愛でてくれるお客様を大切にしてきました。そうしたお客様に支えられて、これまで自分流を貫いてこられたことには、深く感謝しているとおっしゃいます。
自分の考えをはっきり持ち、これからも人の創っていないものに挑戦してゆきたいとの意志は、ますます硬いものになっているように見受けられました。この異色の友禅作家の活動から目が離せません。

野口惠美さんの連絡先:0798-73-5634
 


(2005/7 よこやまゆうこ)

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