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能州紬の織元を訪ねて


工房探訪その40は、能登半島への旅の途中で訪ねた能州紬の織元絲藝苑です。工房探訪シリーズ番外編です。
人指し指を曲げて立てたような能登半島の外海に面する中程に、門前町があります。日本海を一望にするこの地に、昭和42年、京都西陣の織元12代として家業を継いでいた上島洋山氏が絲藝苑を興したのが『能州紬』の始まりです。織りの指導でたまたま訪れたこの地の自然の美しさに感動した上島氏は京都から移り住み、以来38年間、地元に根づいた工芸として高く評価されています。
訪れた日、あいにく上島氏は京都での展示会のためお目にかかることができませんでしたが、座敷に展示されたたくさんの着物や帯を拝見することができました。

 
  能州紬の特徴の一つに、海草(うみくさ)染があります。日本海の波によって浜に打ち上げられる昆布、和布、ひじき、かじめ、ほんだわら、ぎばさといった海草を干してから煮だした液で糸を染めます。微かな緑や薄茶色などがでで地染めをしたあと、草木染や化学染をします。海草による地染で、草木染だけでは出せない艶のある優しい色あいに染まるそうです。こうして染められた糸で織られた布は、いかにも、日本海の海の豊かさを身に纏ったような心持ちになり、お肌まですべすべしてくるような気にもなりそうです。
 
    能州紬のもう一つの特徴の『手繍織り』は、若い織り子さんがやってみせてくれました。この技法は古くからあるものですが、緯糸で模様を織り出す、手間のかかる手法です。小さな杼(ひ)をときには30本も使って、糸という絵の具で絵を描くように、一段一段織ってゆきます。右から左から杼を飛ばしてトントンっと筬で打ち込む、というリズミカルな作業ではなく、下絵を見ながら、色の分量だけの経糸を杼ですくってゆきます。図柄の裏地に縫い糸がまったく出ず、表裏同じ図柄に織りあがる独特の技法です。拡大写真で見ると、まるで油絵の絵筆のうねりのような線が緯糸で織り出されているのがわかります。気の遠くなるような集中力と忍耐力によって、能登の山や海、四季の自然が、着物や帯に織り上げられています。

絲藝苑の織り子さんたちは地元の女生とばかりは限らず、ここで学び、技を身につけ、京都をはじめ、秋田や九州にもどって織り続けている人もいるとか。かつて“あんのん族”でぶらりとやってきた若い女性が弟子になり、住み着いてしまったこともあるそう。各人が各地でその個性を発揮し、染められた色糸を選んで制作し絲藝苑に納めるという、ちょっと他では見ないしくみをもった織元といえそうです。お目にかかれなかったのが残念ですが、上島洋山氏のお人柄が、このようなしくみを可能にしているのではないかと推察しました。
工房の2階では、織りの体験もできます。すぐ近くには、ゴージャスな日没が売り物のヴューサンセットホテルがあります。 曹洞宗総本山総持寺祖院も鄙にはまれな堂々たる寺。和倉温泉には角 偉三郎美術館もオープン、金沢にも近く、好みの一着を求めて、能登半島への旅もいいかもしれません。
 
    絲藝苑の連絡先:0768-43-0768
   


(2006/1 よこやまゆうこ)

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