Home Feature Side Story Shopping About Us
 
prev.

 

もう一つの染織


きものブームであるという人もいます。女性誌には 季節毎のきもの特集が必ず掲載されています。銀座の街角で、きもの姿のご婦人連れを目にすることも以前より増えた印象を受けます。彼女たちは、“きものを着て銀座に行く”ことをイベントのように楽しんでいる風情でもあります。でも、京都の問屋さんをはじめとする業界の人々の声は、ブームとはほど遠いのも実情です。

これまでは、草木染めや手染めの作業を見ることが多かったのですが、今回は、産業としてきものが作られてゆく様を見学しました。技法の改良改善のつみ重ねがあってこそ、誰もが手ごろにきものを着られる時代が到来し、いま、安価な古着をファッション感覚で楽しむことができることにも気づかされました。

   
  型染めと呼ばれる技法には、昔から3枚ほど貼り重ね柿渋を塗った和紙を、彫刻刀で模様を彫りだして使われてきました。この長い修練と技が必要とされる伊勢型紙に代わる、スクリーン捺染用型紙を作るメーカーをお訪ねしました。この技法の出現により、彫りでは途方もない時間のかかる細かい模様も、スピーディに作ることができるようになりました。
まず、注文主から原図をディスクで受け取り、4色に色分解します。トレスも最近ではコンピュータでできるようになりました。そして、型枠に紗(薄い生地)を張り、感光液を塗り強い光を照射して焼きつけます。光のあたった感光液は紗に定着し、トレスの部分は光を通さないので、水洗いで落とします。ウレタン樹脂で補強し、紙に試しの絵刷りをして色を確認の後、捺染工場へ納められます。
この一連の作業がコンピュータ化したのは30年ほども前だそうです。印刷分野のハイテク技術の一端が、きもの作りの裏方を担っていることを知りました。
 
  次の見学先はロール捺染工房。真にきものの工場という風情で大型機械が立ち並び、着尺がふわふわと機械の間から吐き出されてきます。小学生のときからこの仕事に関わってきたというこの会社の会長が、40年ほど前に7/100ミリの深さに銅のロールを腐食させたロールの導入を考案。そのロールの数は今では5000本にもなるそう。細かな模様ばかりか、ぼかし効果さえも表現できるそうです。今では京都でもこの設備を備えているところは数えるほどしかなく、小ロット多種柄の着尺を作っているということです。
     
 
  最後の見学は、本藍を使って絹の着尺を染める工房です。徳島県の天然灰汁醗酵建ての藍染ですが、通常の藍瓶で醗酵、手染めではなく、大きなステンレスの箱の中に満たされた藍のなかに、ロールで布を流し込んで染めます。深い色に染めたいときには、この作業を80回もくり返すそうです。水は梶川の伏流水を汲み上げた井戸水。京都の染めがいいといわれる由縁は、ミネラル分の多い軟水が豊かなことといわれています。この工房のご主人の藍に対する深い愛情と完璧を期するプロセスがあいまって、美しいジャパンブルーが生み出されていく様子がわかりました。
こうした量産体勢を整えた工房/工場から生み出されるきものは、その後、流通を経てデパートや小売店に並びます。賢いきものの消費者であるためには、さまざまな素材、作り方があることを知ること、そして、知識のある消費者は、決して、作り手にとってもマイナスではないと強く感じた見学でした。
    (2006/6 よこやまゆうこ)

(C)Copyright 2004 Jomon-sha Inc, All rights reserved.

このホームページに掲載されている記事・写真・図表などの無断転載を禁じます。

 

(C)Copyright 2000 Johmon-sha Inc, All rights reserved.