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『型絵染作家岩井香楠子さんとその仲間たちを訪ねて』


2004年2月に行われた新宿リビングデザインセンターOZONEでの『布づくし・展 日本の布200選』で、型絵染作家岩井香楠子さんは、ご自身が主宰する工房から4名のお弟子さんたちの作品を出展して下さいました。
手仕事として染めや織りをする人は最近増えているようにも聞きますが、学校で基礎を身につけても、その道で生計をたててゆくことはとても難しい世界。作ることは楽しい、でも、販売することは至難の技という現実。今回は、こうしたもの作りに進みたい若い人たちの悩みと行き方についても、考えさせられる訪問となりました。

岩井香楠子さんはご家族の縁で高校生のときから日本画家小倉遊亀さんについて絵を学び、東京芸術大学で日本画を修め、日本画家として順調なスタートを切りました。その後、専門学校で絞りを初めとする多様な染めの技法を習得、型絵染の道を選んだあとは、紅型の人間国宝鎌倉芳太郎氏のもとで3年間、徹底的に型絵染を習得。恵まれた才能と環境、一流の芸術家の仕事を間近に見つつ仕込まれる幸運に恵まれました。そして1979年、新人染織展初入選以降、毎年出品を重ね、 ‘94年には日本工芸会賞を受賞されました。

 
  横浜にある香南染工房では、常に3、4名の弟子が仕事をしています。お訪ねした日は、2ヵ月後に出産を控えた落合佳江さんが絞りの括り作業、工房発足時からの古参遠藤あけみさん、沖縄芸術大学で紅型を専攻した大西 海君、文化服飾学園を卒業したばかりの新人山崎純子さんの3人が、伸子張りした着尺に色挿しをしていました。工房での作業は、岩井さんのデザインに添って弟子たちが分業で作業を進めてゆきます。色感の優れた人は色挿し、彫るのが好きで上手な人は型紙作りといった具合に、各人の得意分野を生かした作業分担が自然に生まれてくるそうです。岩井さんは、詳細なデザインを紙に落として出すことはせず、大まかなイメージを伝え、そのつど、言葉でイメージを交換しながら作品を仕上げる方法をとっています。その方が、岩井さんの表現したいニューアンスや情感が伝わり易いと感じているからです。
岩井さんは‘80年代から、誂え専門のきもの作りをしてきました。オンリーワンのきものを望む女性にとって、肌色に合う色や柄を作り手とじっくり話し合いながら決めてゆけることは理想的です。現在は、理解ある呉服店に恵まれ、岩井さん独得の上品で明るい色調と洗練された図案による型絵染のきものを愛するお客さまたちとの出会いの機会が持たれます。こうした機会に、弟子たちにも、自分が手がけた着尺や帯が、目の肥えたお客様にどう評価されるかという緊張の瞬間を味わい、将来、自分の展覧会を開くという目標につなげてもらいたいと岩井さんは願っています。
 
では、弟子たちはどんなことを考えているのでしょうか。岩井さんに出していただいたテーマ「5年後を目標に、いま考えること」への4人のお弟子さんたちの言葉です。

<遠藤あけみさん>
 染め物を取り巻く状況も次第に変わり、失われてゆく材料や技術の多いことにも目を向けつつ、“新しい心”で作品を生み出してゆきたい。テクノロジーの21世紀に、あえて、手仕事にこだわる意味を問い続けている。

<落合佳江さん>
 家事や育児を主軸に置く生活のなかで、自分自身の作品づくりにのみこだわることなく、細く長くこの仕事に関わってゆきたい。手仕事の楽しさだけは忘れたくない。

<大西 海 さん>
 お世話になった方たちに自分の作った着物をプレゼントできるくらいの力をつけたい。

<山崎純子さん>
 染めの仕事を一人でできるようになったら、積極的に公募展に出品したり、いづれば個展も開きたい。また、布以外にも、和紙を染めて絵本のようなものも作ってみたい。ものづくりを“楽しむ”気持ちを大切にしたい。
 
  分野を限らず、手仕事で自立し、生計を立ててゆくことの難しさに直面し、初心を貫けずに終わる若い人たちも多い一方、レストランでアルバイトをしながら、染織作家の夢を投げ出さず、公募展での受賞をきっかけに問屋や小売店が取り上げてくれるようになった作り手もいます。自分を信じるこころと、運を呼び寄せる情熱と努力と、時代を見据える感覚を研ぎすますことが、いつか道を拓くということなのでしょうか。岩井さんの弟子たちへの暖かいまなざしを感じた訪問でした。
   
    (2006/7 よこやまゆうこ)

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