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『絣らしくない絣の冨田 潤さんを訪ねて』


冨田 潤さんの作品に出会ったのは、20年以上も前のこと。国際的なキャリアと知名度から、既に確立した染織作家であると感じていました。
絣の技法で染め分けられた布は、伝統技法を使いながらも、いわゆる日本の絣の味を全く感じさせないことに新鮮な驚きをもったものでした。工芸とアートの間を行き来している冨田さんが、今年の秋、古巣ともいうべきロンドンで個展を開かれるというので、京都愛宕山麓、越畑の工房をお訪ねしました。

 
 
 

冨田さんの仕事は多岐にわたります。ひとつは、絹や麻に従来の絣技法を使ったテーブルランナーや暖簾、タペストリーなど。定番として根強い人気を博しています。もう一つはイギリスで学んだウールの二重織を縮絨させて作るラグ。さらに、最近新しく加わった刷毛描きによる帯やパネルなどです。
このように、異なる素材や技法を用いながらも、どの分野のものでも、一見して冨田さんの作品とわかる個性と美意識に貫かれているのは、確かな技と斬新な工夫に裏打ちされている故とお見受けしました。日本では西欧的な印象を与え、海外では東洋を感じるといわれるTOMITA WORLDをちょっと覗かせていただきました。

富山県出身の冨田さんが絣への関心を深めたのは、京都での染織修行時代。伝統の技を習得し、日本各地の絣も見て歩いたものの、絵絣のように具象を絣で表現したものは好きになれませんでした。そして、伝統的な和の絣を一生の仕事としてゆく気持になれず、絣技法を用いながらも一枚の抽象画のような布を編み出してゆきました。さらには、素材としてのウールの可能性に関心を持ち、オーストラリアの州立工芸研究所でウールの研究を2年間。さらに、イギリス美術工芸専門学校West Surrey College of Art and Designで3年間、染織科の学生でもあり非常勤講師でもあるという自由な立場で縮絨(しゅくじゅう)の研究に明け暮れました。そのころの実験サンプルがたくさん手元に残っているのを見せていただきました。織られたままの状態では面白くなさそうな布でも、縮絨をかけると全く違う表情を見せます。糸が縮み糸同志が絡み合うというウールならではの性質を巧みに利用した効果です。

 

イギリス滞在中に冨田さんの進むべき方向を決定的にしたのは、その著書をバイブルのようにして研究していた世界的染織家ピーター・コリンウッド氏に気に入られ弟子入りがかなったことでした。数週間、コリンウッド氏のもとで、寝食を共にしながら、本場のラグの織りを習得するという幸運に恵まれたのです。生活の一部として織物があるというライフスタイルを学んだのもこのときでした。また、冨田さんのアトリエに並ぶご自身の考案になる不思議な機たちは、コリンウッド氏伝授による道具の開発の賜物だそうです。だれもやっていない技法を実現するには、市販されていない道具や機械を作ることから始めるのは、どの工芸でも同じ。自由な発想と工夫と行動力が求められるところです。この頃発見した技法に、ウールをフェルト化するのに硫酸を使うことがあります。通常はアルカリで縮絨しますが、British Wool Industryという本の記述からヒントを得、実験してみたらうまくいったということ。ここにも冨田さんの捕われないこころと実行力が発揮されているようです。

冨田さんの色は、深みのある渋い色あいから、最近の華やかなオレンジ色や強い赤まで多様。通常の絣のイメージとは全く違う色の重なりを持つ織りは、経糸の染めを繰り返すことで得られます。さらには、整経した糸に刷毛や筆で色を染めてゆく手法も取り入れるようになりました。色を混ぜて染めるのではなく、糸の括りを変えながら染め重ねることにより立体感のある色を作ってゆくのです。素材も、木綿、ウール、麻に加えて艶消しの絹も加わり、さらに表現の幅が広がりました。

 

ご本人の言葉を少し。『、、、。経糸に何度も何度も色を染め重ねる、意識してムラ染めにすることもある。経糸に染めた濃淡による深み、あるいは経糸一本の多色によって出てくる色彩の変化や深み。筆や刷毛を使って、長い経糸を染めることもある。均一に染めるのが上手という枠から全くはみ出してしまっている。また、絣の特徴である手法的制限が生む表現からも、飛び出してしまったかもしれない。
私は技術に裏打ちされた工芸を評価したいが、染織ならば、最終的には布としての特性と存在感をしっかり持った作品を創らない限り、嘘であろう。それぞれの用途に見合った布でない限り、その存在価値は認められない。
そういう意味で、あるいはそれを超えたところで、アメリカの染織作家シーラ・ヒックスが述べた、私の作品に対してのコメント、「質感のある色であり、深みのある色感を持った布」―Colored texture and textured color ―を常に追求していきたいと考えている』(2002年7月号家庭画報)

 

冨田さんは、自分にとって織るということは、野菜を育てたり、料理をしたり、子育てするのと同じくらい普通の日常としてある、とおっしゃいます。気負いのないこころと円熟の技がこれからどんな布を生み出してくるのか、目が離せません。経糸に刷毛で色をのせてゆく技法を使った冨田さんの帯が初めての試みとして近々発表されるそうです。また、このサイトでご案内できるでしょう。

    (2007/1よこやまゆうこ)

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