冨田さんの仕事は多岐にわたります。ひとつは、絹や麻に従来の絣技法を使ったテーブルランナーや暖簾、タペストリーなど。定番として根強い人気を博しています。もう一つはイギリスで学んだウールの二重織を縮絨させて作るラグ。さらに、最近新しく加わった刷毛描きによる帯やパネルなどです。
このように、異なる素材や技法を用いながらも、どの分野のものでも、一見して冨田さんの作品とわかる個性と美意識に貫かれているのは、確かな技と斬新な工夫に裏打ちされている故とお見受けしました。日本では西欧的な印象を与え、海外では東洋を感じるといわれるTOMITA WORLDをちょっと覗かせていただきました。
富山県出身の冨田さんが絣への関心を深めたのは、京都での染織修行時代。伝統の技を習得し、日本各地の絣も見て歩いたものの、絵絣のように具象を絣で表現したものは好きになれませんでした。そして、伝統的な和の絣を一生の仕事としてゆく気持になれず、絣技法を用いながらも一枚の抽象画のような布を編み出してゆきました。さらには、素材としてのウールの可能性に関心を持ち、オーストラリアの州立工芸研究所でウールの研究を2年間。さらに、イギリス美術工芸専門学校West Surrey College of Art and Designで3年間、染織科の学生でもあり非常勤講師でもあるという自由な立場で縮絨(しゅくじゅう)の研究に明け暮れました。そのころの実験サンプルがたくさん手元に残っているのを見せていただきました。織られたままの状態では面白くなさそうな布でも、縮絨をかけると全く違う表情を見せます。糸が縮み糸同志が絡み合うというウールならではの性質を巧みに利用した効果です。
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