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『書のある着物の渋谷玉光さんを訪ねて』


『工房探訪シリーズ』は、2004年1月に新宿リビングデザインセンターOZONEで開かれた『布づくし・展 日本の布200選』に出展された作り手たちと、番外編として新たに出会った染織りの作り手たちをお訪ねしているレポートです。
51人目にご紹介する渋谷玉光さんは、「小倉百人一首」のかな文字を書いた着尺と、「福禄寿」の帯を出品されました。友禅染の布に書家である玉光さんが書を書かれた作品です。
玉光さんは染織作家ではありませんが、絹布に直接、墨でかな文字を書いて意匠とするというかたちで着物や帯にかかわっていらっしゃいます。書と着物の優雅な関係を伺ってみました。

 
 

玉光さんの書道歴は古く、書家故浅井素堂氏のもとで学び、その後、日比野光鳳師に師事。既に30年のキャリアです。30代で日展に入選するという好調な滑り出し以来、昨年はかな文字部門で日展の会友にもなられました。若い頃は油絵を描いていましたが、結婚を期に書の道に。書はまず“技”を身につけるところからも、アートというよりは工芸のような一面がある、とおっしゃいます。一つの線にも息づかいが出るので、無心になって筆を運ぶ練習は修行のようなものと。視点を固定し、息を深く整え、かな文字特有のちらしと呼ばれる構図を考え、空白の美ともいうべきアンバランスの美を生み出すことが求められます。
絹布に書く書について玉光さんがこだわるもう一つの点は、ことばです。紫式部日記、古今和歌集、百人一首、源氏物語などの古典をはじめ、蕪村、山頭火、漱石の俳句を着物に記したこともあります。さらに自作の句を帯のお太鼓にアレンジしたり、テレビで耳にした心に残ることばを袱紗に映すことも。例えば、友禅で染め分けられ金彩が流れるような川の意匠の着尺には「荒海や佐渡によこたふ天の川」。額装される白絹には明るく力強い字で「笑う門には福きたる」と。ことばとの出会いが創作意欲につながるとおっしゃいます。和歌、俳句をはじめ、さまざまな日本文学を紐解くことは、玉光さんにとって創作につながるもっとも充実した時間です。

 

玉光さんが絹布に書を書くようになったのは、身近に友禅染めがあり、着物が好きでよく着ることから、日常の生活の中で使ってもらえるものに、もっと書があったらいいな、と思ったことがきっかけでした。芸術としてちょっと私たちの暮らしから遠ざかっている印象のある書道の世界を、普通の暮らしに何気なくとりいれられないか。そうすれば、日本人ならではの書をもっと身近に感じてもらい、そこに書かれることばの大切さを見直してもらえるのではないか、との思いが強かったことが始まりでした。着物や帯、袱紗のほかにも麻ののれんにも書いてみました。お遣いものに額を求められれば、お見舞い、お祝いなどの目的を聞いてことばを選ぶようにしています。
また、京都では「品」を大切にします。“少し足らないところがある”が千利休の美意識でもあるように、玉光さんの書に向かう心も、控えめであることを忘れないよう、墨の色や文字の大きさなどに心を配ります。自己主張をしなければ負けてしまう現代の競争社会では、かき消されてしまいそうな「控えめな品」を大切にしたい、と玉光さんは常に思っています。

 

2000年1月に東京銀座松崎画廊で開いた作品展『衣の響 渋谷玉光の世界』をかわ切りに、2001年3月には京都でも『衣の響』展を開きました。さらに東京谷中、木楽庵での『和の響』展では、和みの書を目指して、東京の下町情緒を背景に雅な絹布に書の個展を開かれています。芸術や工芸のジャンルをひらりと超えて、格式高い世界に怖じることなく、書を日本人の暮らしに近づけたいとの玉光さんの強い思いは、これからもきっと多くの支持者を得るに違いないと思いました。

 
    展覧会ご案内:
2007年4月11日〜15日まで、東京谷中の木楽庵で「和の響」展が予定されています。
木楽庵:東京都台東区谷中7−4−2
03−3821−2477
    (2007/2よこやまゆうこ)

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