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京都御室の爪織りつづれの坂田夫妻を訪ねて

京都御室の仁和寺門前で4代目として爪織りつづれを制作している坂田征機さん、ますのさんご夫妻をお訪ねしました。熊本県出身の征機さんは、この地で続いてきた爪織りつづれの伝統を残したいと、サラリーマンを辞めて妻の実家の稼業である爪織りつづれを継ぐことを決心、28歳のこと。それから今日まで、制作と販売を続けていらっしゃいます。
仏教伝来とともにもたらされたと言われるつづれ織ですが、御室の爪織りつづれの起源は、平安時代仁和寺の僧坊のなぐさみとして始まり、御室の気候風土(湿度)がつづれ織に適したため、その後、仁和寺門前界隈に広まり、御室つづれとなりました。
つづれ織りは、杼で緯糸を通す普通の織りと違い、15cmほどの小さな杼で図柄にそって必要な本数だけの経糸を掬い、折り返して、同色の部分を埋めてゆくという作業です。
地色にあった色に染めた強く撚りのかかった絹糸約420本を経糸にかけますが、織り上がった布の表面に経糸は見えず、緯糸だけで図柄を描いてゆきます。緯糸という絵の具で絵を描いているという感じでしょうか。
西陣に多い機械織のつづれと違い、坂田さんのつづれは、両手の中指の爪をやすりで鋸状にして緯糸を掻き込む爪織りの技法が使われています。今や、爪織りをする人は御室でも数えるほど。機械織つづれが市場を席巻し、爪織りつづれを見たり触ったりする機会のめっきり少ない昨今、本物を締めた人しか実感できないつけ心地の良さは、口では説明できないとおっしゃいます。目の肥えた使い手によって工芸は鍛えられ育てるられることを、ここでも感じさせられました。



坂田さんのつづれ帯の図案は、うず高く積まれてしまわれた代々伝わってきたものを中心に選びます。その数は数えたこともないほど。時には15本前後の杼を使って微妙な濃淡の色使いで、シンプルに図案化された花などを立体的に織り上げます。ジャガードやコンピュータを使って細密な図柄を織り出したものがつづれ織りの主流と思われがちですが、一段一段爪で押さえられ織り重ねられたふんわりした仕上がりは、手仕事でなければ出せない味。経糸がどれほど強く張られているか、牽棒という経糸を巻き締める棒を架けさせてもらったところ、全体重をかけてもびくともしない堅さに驚くばかり。ますのさんは、慣れですね、と事も無げに架けてみせてくれました。
つづれ帯は一部ではおしゃれ着用とされている向きもありますが、本来は留袖や色留袖など第一礼装用の帯です。帯芯を使用しない爪織りつづれ帯は、格のある織りのため、名古屋帯で充分通用すると言われています。機械織つづれは薄手のため袋帯に作り上げるようになったとの事情があるとも言われています。優れた技で織られた爪織りつづれは、表と裏どちらを前にしても締めることができます。
 
緑色が鮮やかな桐の図柄の帯は、40年前に織られたもの。黒地に椿の帯は60年前の祖父の作。銀糸を使って陰影を表現した上品な帯です。ところが驚いたことに、この帯は喪服用としても使えるようになっています。それはおなかの部分の半分に椿、半分に数珠の図が織られ、お太鼓にもそれぞれの柄が表と裏に織られ、どちらを表にしても締めることができるのです。古くなったとき、裏返して締めることができます。長い間、重宝できる爪織りつづれならではの特徴を生かした帯です。このように昔の人は貴重な手仕事が精一杯役に立つよう、知恵と工夫を働かせたのでしょう。

以前は十数人ほどの職人さんがいたという坂田さんのところも、今では職人さんが少なくなり、ご夫婦が中心となって制作されています。一年に何本も織れない時間のかかる仕事を、嫁いだ娘さんたちが継いでくれたらいいなあ、と心のどこかで願っていらっしゃるようでした。注文生産ゆえに、仕上がればすぐにお客様へお届けするので、手元に残る作品が少ないのが残念でした。
着物好きならば一本は持ちたい爪織りつづれ帯。坂田さんのところでは、着物の柄の一部をデザインして帯にあしらうなど、特別注文にも応じてくれるそうです。また、帯以外にも、袱紗や懐紙入れなども制作しています。
御室爪織りつづれの“美と技”をしっかりと守り育て、新しい時代感覚にも配慮しながら、懸命に伝統産業の維持発展に努力されている様子が印象深く感じられました。 
    (2007/12 よこやまゆうこ)

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