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『植物を愛するアーティスト高樋一人さんからの展覧会レポート』


まだ面識のないリバプール在住の若きアーティスト高樋一人(たかどい かずひと)さんのことを知ったのは、ロンドン大和日英基金ジャパンハウスの河村知子さんのご紹介でした。大和日英基金ジャパンハウスでは日本人アーティストの紹介を続けており、アート専門ギャラリーではないものの、日本人作家にとってはロンドンでも数少ない発表の場となっています。
高樋さんとのメールの行き来のなかで、弊サイトへの投稿をお願いしたところ、快く引き受けて下さいました。その文章から推測するに、少年のころ漠然と“好き”だったものが次第に形を持ち始め、積極的で物怖じしない行動力によって、ぐんぐんと自分のやりたいことをたぐり寄せ、現在のような結果にまで到達したことを読み取ることができます。
高樋さんの作品は、植物の茎や葉をそのまま和紙に差し込んでゆくものです。変化する植物の色とシンプルなかたちの画面は、ヴィジュアルな俳句とも言えそう。
いまと言う時代にしなやかにフィットした感覚の持ち主である高樋さん、この秋、一時帰国される予定というのでお会いするのが楽しみな海外で活躍する若きアーティストです。

(よこやまゆうこ)

『GREEN EVOLUTION(植物の展開)』展によせて

私の生まれ育った名古屋市緑区の家の周囲は自然環境に恵まれ、春にはワラビやゼンマイが採れ、秋にはアケビ、山ぶどう、柿などを採りに行く格好の遊び場でした。又、夏には父親の出身地である長野県の木曽へよく遊びに行き、自然がとても身近にある環境で育ちました。
その頃から植物を育てることに興味を持つようになり、毎年春休みには、東京在住の叔母(元小学校教諭)が我が家を訪れるたびに本屋さんに連れて行ってもらい、欲しい本を買ってもらいました。ある時「ハ−ブ」と言う聞きなれない植物の本を見つけ、日本特有の植物だけではなく、外来種の植物があることを知り、海外の華やかな色とりどりの花壇の写真を見て、いつかイギリスに行ってみたいと思うようになりました。その思いに一歩近づいたのが、高校2年の夏、英国庭園を見るツア−に参加することでした。この経験によって夢はますます膨らみ、いつか英国に行って本場の庭職人になりたいと思うようになってゆきました。
高校卒業後、壮大なラベンダ−畑を夢見て、札幌で農業と園芸の勉強をし、本土では体験できない植物を育てることができました。ちょうどその頃、日本は空前の園芸ブ−ムとなり、幸い園芸関係の仕事につくことができました。けれどもイギリスで本格的な園芸の勉強をしたいとの思いは強まるばかり。英国王立園芸協会ウィズレ−ガ−デンで実践中心の園芸と植物学を一年間学ぶプログラムに応募しました。このときは、英国の文化、芸術、植物園など、時間のゆるす限り見て回り、自然彫刻家であるアンディ−・ゴ−ルズワ−シ−、デ−ビット・ナッシュなどの作品を見る貴重な体験を積むことができました。さらに、芸術一般にも興味を持つようになりました。
その後、同じようなプログラムを提供している米国ペンシルベニア州ロングウッドガ−デンで、英国とは又少し違ったディスプレ−を中心とした園芸を勉強する機会にも恵まれました。卒業が近くなった頃、英国王立園芸協会が発行している雑誌の彫刻庭園の記事のなかに、庭、植物、彫刻が共存しあった、まさしく自分のやってみたいと思っている庭の写真を見つけました。是非ここで仕事がしたいと手紙を出したところ、幸運にも願いが適い、受け入れられたのです。再び英国に渡り、サリ−州にあるハナ、ペッシャ−彫刻庭園で庭園管理の仕事をさせてもらうことができました。そうするうちに、自分でも植物を使って何か表現できないものかと思い、昼間は庭仕事、夜の空いた時間を活用して色々な作品を作ったりの試行錯誤が始まりました。さらに専門的に勉強してみたいと思い、英国リ−ズ・メトロポリタン大学でア−ト&ガ−デンデザインの勉強し、ますます自分のやりたい方向が見えてきました。
大学在学中はさまざまな作品を作り、ハナに会う機会があった時にそれらの作品を見せたところ、興味を持ってもらうことができました。初めてクラフトカウンシル主催の「コレクト」がロンドンのヴィクトリア&アルバ−ト博物館で開催される機会に、私も出品させてもらうことができ、以来今日に至っています。
私の作品作りの手法は、植物という自然素材に再び命を吹き込むことです。オ−ガニックア−トと呼んでいます。まず和紙に穴をあけ、自然乾燥させた草などを編み込んでゆきます。着色、保存料などはいっさい使わず、変化してゆく植物の色や、植物そのものが持つ特徴を表現しています。
時の中で変化していく作品は、新しい畳が時の経過とともに淡い飴色に変わってゆくように、日本人の心奥にある「侘び・寂」の文化の反映だと思っています。
自然から与えられるすべてのものが、かけがえのない発想の源です。これらの作品も私が自然の中で感じ取ったほんの小さな瞬間を再現したものです。そんな瞬間を見る方にも感じていただけたら嬉しいと思います。
10年近い英国暮しでいまひしひと感じることは、日本ではあまり感じることのなかった日本文化、とりわけ、四季の美しさです。春には庭に咲く沈丁花の香り、夏夜の虫の声、秋には地面を黄色く染める香り高い金木犀、冬には雪の中に咲いた山茶花の花ーーこれらを懐かしく思うたびに、日本人であることを意識し、誇りに思います。
今回2008年1月10日より3月19日までロンドンにある大和日英基金ジャパンハウスで初個展を開催することができました。初日のパ−ティ−では100人以上の方々がお越しくださり、中には個展のために遠方から来ていただいたと思うと、感無量でした。今回の個展が実現したのは、大和日英基金を初めとする関係諸氏のお陰です。心からのお礼と感謝の意を表したいと思います。
ロンドンでの個展を経験し、これから日本やその他の国々でも展覧会を開ければと願っています。また、新しい素材や手法を取り入れて、見てくださる方々に喜んでいただけるよう努力したいと思っています。

リバプールにて。2008年3月
高樋一人
http://www.kazuhitotakadoi.com/
   

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