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『佐竹孝機業店の佐竹司吉さんを訪ねて』

佐竹司吉(かずよし)さんが父親から受け継いだ会社の名前は佐竹孝機業店。機業店とは、今となっては古くさい名前とおっしゃりながらも、仕事の内容そのものを示す社名だから、と愛着をもって大切にしていらっしゃいます。
制作しているのは、西陣織織物として「西陣座佐織」のブランドをかかげた着尺や帯ですが、制作の拠点は35年ほど前から出身地である石川県加賀市の山中温泉に。佐竹さんは京都本社と工房の間をシャトルのように行ったり来たりして、創作帯の制作に邁進していらっしゃいます。ヨット選手としてアテネオリンピックに出場した娘の美都子さんが、力強い右腕としてサポートしています。
 
  佐竹さんの創作の特徴は、織機の可能性をできる限り活用した複雑な織りの帯を創る一方、上質な糸で知られる小石丸という日本在来蚕を育て、生引きした糸を草木染するという手の仕事の二頭立てにあります。通常、織機には、同柄のものを4、5本かけますが、佐竹さんは、一柄一本。とても効率的とはいえない作り方を守っています。
工房の至る所にサンプル糸が置かれています。金銀糸を始め、モールや染リボン箔など、複雑な効果を出すために特注で作らせた糸ばかり。これらを使って、上品な光沢が裂の奥から滲みでるような工夫をこらした着尺や、モールなどで立体感をもたせた帯が作られます。櫛織という技法も使います。筬(おさ)で均等に緯糸を打込む代わりに、幅4cmほどの櫛で緯糸を抑えてゆくと、波状の透け感のある裂が織れます。一本の帯を織るのに、12万回櫛で抑えるという。こうした多種多様な糸や織り方を縦横に駆使して、佐竹さんの好奇心、この世にないものを作りたいという工夫の精神がいかんなく発揮されます。オリジナリティの高さを買われ、茶道の武者小路千家のために制作した「家元好み」の袋帯は好評を博し、シリーズとなっています。
  1500年代後半、北陸地方で織られていたという「奉書紬」。奉書紙は、素材の吟味から漉きかたまで、熟練が求められる手漉和紙のなかでも最高級の紙。その奉書紙に似た光沢や風合いをもつ裂が、「奉書紬」とよばれる加賀絹です。平成2年、佐竹さんの研究熱心なところが見込まれ、加賀市織物組合の依頼で、「奉書紬」の復元を試み成功しました。国立図書館から入手したという、1789年記とある『絹布重宝記』には、「奉書紬」がいかに素晴らしいかや、加賀藩からの献上絹として用いられたことが記されています。この復元をきっかけに、上質の絹を織るために、自ら桑を植え育て、健康な蚕を育てることも始まりました。裂の原点は糸、それを追求してゆくと、良質の桑を育てるところまで繋がってゆくのです。こうして得られた糸と、近隣や庭の植物から得た染材で染めた糸を高機で手織りする、その自然の恵みを生かした創作が、佐竹さんのもう一つの活動です。緻密なデザインと糸の選択、色合わせの完璧さから生まれる織機の帯を左脳で考え、手引き糸の味わいや植物染織のむらに染まった自然な風合いを右脳で感じながら、佐竹さんはその両方を心から楽しんでいらっしゃるようにお見受けしました。
この地域にも養蚕農家は一軒も残っておらず、何とか桑の栽培を広めたいと「21世紀桑の会」を立ち上げ,国産の絹を守る運動も始まりました。食料自給率が39%の日本、絹の自給率など数字にもならないほどにまで消滅しているのが現状です。桑を植え蚕を育てようという動きは、心ある人々によって各地で始まっています。農家の生業、、とは言わずとも、副業として養蚕が蘇ることを強く期待したいと思いました。
    剣道では師範の腕をもち、警察官だったという青年が家業を継ぐことになったとき、何も分からず織機のまえに立ちつくす息子に、父親は、織機を一台好きなようにいじってみなさい、と与えたといいます。息子は、指南もなくただ実験的に操作を繰り返し、分解し、組み立ててという具合に、一年間、徹底的に織機をいじりました。佐竹さんの織技法のさまざまなアイディアは、きっと織機の可能性を知り尽くしたところから閃くのではないかと思います。跡継ぎ修行中の美都子さん。二人乗りヨットのオリンピック選手になるには、想像を絶する厳しい訓練があったことと思われますが,その根性で今度は佐竹孝機業店の21世紀を展開してゆくことでしょう。心から応援しかつ見守りたいと思います。

お問い合わせ先:佐竹孝機業店 075-441-3007
(手機、草木染め体験など)

    (2008/7 よこやまゆうこ)

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