2000年8月に山荘の和室に和紙を張る(
Side Story#009
)改装から早や10年。この夏は、2段ベッドの子供部屋を改装しました。
標高1500mの地にある、築20数年になる山荘は、唐松をはじめ、白樺やこなしの樹が空を被うほどに成長し、地面に光が届きにくくなっています。一昔前は、家の周囲を一周しただけでも、抱えきれないほどの山野草が採れ、山ならではのブーケが作れたのに、今ではすっかり草花が減ってしまいました。その分、気温も平地に比べ10℃近くも低いので、過ごし易いことはありがたいのですが、、。
そこで、暗くなった西北の部屋に出窓をつけ、松材の壁板をやめて、漆喰塗にしようと思い立ちました。出窓は、カタログから選んだ既成品を取りつけ、開口部を確保。窓一面の緑が目に飛び込んでくるようになりました。
漆喰塗をお願いしたのは、迫田英明さん。
ギャラリートラック
で、故木村二郎さんの片腕として腕を磨き、今は独立。建築家の徳永青樹氏とパートナーを組んで、長野県富士見町で建築、内装、オリジナル木工家具制作などの仕事をしています。(
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さて、漆喰の下地はベニヤでいいものと思っていたのでしたが、仕上げの感じがいいモルタル塗にしてください、とヒデ君の要望。左官の菊池さんの登場となりました。菊池さんは、左官歴50年の大ベテラン。30年間、現場を共にしてきたという奥様とは息のあった仕事ぶり。防水シート、ワイヤネットを張り、いよいよモルタルを乗せる作業。小さな空間が、荒々しい素材で囲まれてゆくのを見たときは、“失敗したかな、、”との思いがよぎりました。折からは、梅雨の雨続き。レンタルの強力除湿器を24時間かけて湿度85%を60%ほどに。ベテランの技が発揮されたのは、周囲の木枠と壁との接点が収縮で隙間ができやすいのを防ぐ処置。10cmほどの麻紐を釘に結び、10cm間隔で木枠の際に打ちつけてゆくというもの。モルタルを上塗りしたときには、麻紐はきれいに塗り込められていました。天井を塗る作業は、決してお若くはない身には、かなりの重労働に違いないのですが、サウナ状態のなか、菊池さんは精力的に腕の冴えを見せてくれました。
モルタルがすっかり乾燥するのを待って、いよいよ漆喰塗。磨くとぴかぴかに光るタナクリームという素材を使用。鏝(こて)で微妙な起伏を残しながら3度塗り。最後の仕上げは、タナクリームが乾かないうちに掌でこする、というもの。これは、本当に不思議なことでした。漆喰(生石灰)+糊+水の塗料を塗り、乾かないうちに掌で強くこすると、マットだった表面が光りだします。一見、大理石の表面のような、微妙な色の重なりが奥行き感をかもし出します。紫かかったグレーの濃淡の天井も、出窓から差し込む緑色の光を反射して、涼しげな表情になりました。プロの漆喰職人ならとまどうかもしれないムラのある仕上が、アート感覚あふれる若い二人によって、ほどよいやすらぎを醸し出す空間へと変身したのでした。ヒデ君作の栗の古材のカウンターも存在感充分です。
(2010/7 よこやまゆうこ)
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