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『小林 恵さんからの投稿』


アメリカ8代の大統領のサインを集め、リンカーンと就任式にダンスをした人の作った署名キルト

小林 恵さんは1964年から47年間、ニューヨークで過ごされました。アメリカンスピリットを愛し、アメリカの手仕事であるキルトやフックド・ラグ(hooked rug)を日本に紹介し、今日のように根付かせた方です。長いNY暮らしを終え帰国されたと伺い、さっそく投稿していただきました。
アーミッシュ・キルト

アーミッシュ・キルト


『日本のもの作り、匠の世界と誰でもできるアメリカン手作り』

アメリカに長く住んで、アメリカのフォークアートに心が温まりました。キルトは誰でも作れます。下手でも個性に満ちていれば、人の心を動かすことができます。当時は、マスターという先生もいません。学校もありません。そのうえ、材料も充分にはありません。できたら集まり見せあって楽しみました。当然、集会は教会や野原で行われました。上手にできた人には、持ち寄りのアップルパイやパンプキンパイやクッキーを分かちあいました。そして、どうしたらこの集まりを利用して、家族やコミュニティに貢献できるかを考えました。まさに開拓精神の原点です。 病める人に、皆でキルトを作って贈ろう。西部に移動していく人たちに、思い出と感謝のしるしとしてキルトを贈ろう。教会や学校の資金調達に、キルトをオークションで一番高く買ってもらうシステムを作ろう。
アメリカの土地に足をおき、雨風をしのぐ自分たちの住む家を自分たちで作りました。家は移民した人たちのアメリカンドリームの一つです。ベッドの上には色とりどりの布をはぎ合わせてベッド掛け、キルトが作られました。ベッドの足もとにはラグが、暖炉の前には隙間風を防ぐための個性豊かなフックド・ラグが作られました。
入植から100年、アメリカ人の暮らしは豊かになり、産業革命により安いコットンプリントが手に入るようになりました。ニューイングランドにはウール工場が林立し、ヨーロッパからの高い輸入税を払わないでもキルト作りができるようになりました。

ネクタイ キルト

すべてネクタイの生地を使ったキルト。
キルト展覧会

2011年、ニューヨークで開かれた白と赤だけのキルト800枚の展覧会。誕生日祝いとして、妻のキルトコレクションで夫が開いた展覧会ということで、アメリカ中の話題となった。
フックドラグ猫

タビーキャット 1892年アメリカのテキスタイルプリント会社から発売され愛され続けているタビーキャットをぬいぐるみに。立体に 仕立てて楽しむこともできる。

果たして、アメリカではどれくらいのキルトが作られたのでしょうか。一人が平均7枚のキルトを持っていたといわれています。当然、来客用のキルトや、結婚用の特別に手の込んだ美しいキルトも作られました。ラグも作られましたが、靴で踏まれる運命のため残っているものは少ないのです。家に必要なものはまずテーブルとベッド、その次の投資はベッドカバーでした。因みに、ジョージ・ワシントンの遺産相続リストにも、ベッド掛け、キルトが記されています。 家を美しくするためにキルトやフックド・ラグが作られた理由は、これらがアメリカを知るための重要な“暮らしに根を下ろす”“美しく暮らす”証でもありました。アメリカが豊かになってからは、キルトもデザインが競われるようになりました。商品として作られたものでありませんが、当時のキルトの良いものは1990年代からほとんど美術館所有か、ヨーロッパのインテリアデザイナーに買われ、国外に出てしまいました。日本の浮世絵や着物の型紙が、大量に国外流出したのと似ています。似ていないことは、日本のアートからインスピレーションを得た西欧人たちが、絵画や建築をはじめ、あらゆる用の美の美術表現に、独自の時代を築く発想の基となったことでしょうか。
『アメリカンキルト事典』(小林恵著 文化出版局1982年)に掲載した500枚のキルトは、現在殆どが美術館に所蔵されています。キルトが見直され、アメリカ人がアメリカに驚いたのは1970年の初めからです。洗濯が難しいこともあり不潔の塊のようで、引っ越し用の家具の保護用に使用されていました。
そして、アメリカ人の血の滲んだキルトが、日本で社会現象をおこしました。女性のもの作りで、キルトほど日本の女性たちの熱を引き起こしたものが、果たして他にあったでしょうか。しかし、残念なことに、発表する情熱はありますが、殆どのキルトは次の発表のために押入れに眠っているのが現状だそうです。



『収穫感謝祭NYパレードのパーティ』と題されたアリス・ルッデルの作品。





色褪せた19世紀のフックド・ラグ。


プリミティブスタイルにこだわったアンティーク風のくすんだ色使 いが特徴のバーバラ・キャロルの作品。
 
帰国して日本の匠の世界、伝統の深さに感動している日々です。精根を傾け、時間をかけ匠の世界に集中している作家や職人さんたちが現在もいるのは、凄いことだと思います。時間と収入が合わなくても精進するのは、武士の伝統でしょうか。日本人のユニークな点だと思います。
繊維、布地の伝統も、世界の群を抜いています。産業界でも感嘆する優れたアイデアの繊維が日本で制作されています。伝統ある裂き織も、ひとたびアイデアを得ると、美術性の高いものが作られています。織物のメソッドを教えらなくても自然にわかっているのは、伝統のたまものと思います。日本は、技の世界で、もの作りのメッカだと思います。いつの日か、バウハウス(Bauhaus)のような、理論や生活哲学をも教える世界レベルのデザインスクールが日本にできれば、個人的匠のもの作りから、さらに世界に影響を与えることになるでしょう。それが技を後世に伝えてくれた多くの昔の作り手たちへの、最高の鎮魂歌になるのではないでしょうか。

谷中にて   小林 恵




(写真は、筆者提供、『アメリカン フックド・ラグ』から転載)
小林 恵さんのブログ
 
お知らせ:
* スタジオ・小林恵のフックド・ラグ教室
“誰でもできる”のがアメリカンコンセプトです。作り方の初歩から、自分が作ったラグに感動してしまうコツまでを教えます!

2時間クラス。6月24日(日曜日)スタート。
以降、毎月最終日曜日。
1.00p.m.~3.00p.m.

問合せ:keikobayashiny@gmail.com 

*小林恵のラグデイ
(初心者、経験者を問わず、自由にラグ作りを楽しむ教室)
毎第3水曜日、11.00a.m.~3.30p.m.
問合せ:ホームスパン 
tel:03-5738-3310
    (2012/5 よこやまゆうこ)

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