handmadejapan.com ［日本の手しごと］/Side Story #253：＜その２＞Misty Fjords フィヨルドを空から見る

Wrangellの港に錨を下ろす。快晴。６人乗りの水上飛行機で、潮間氷河のミスティ・フィヨルドを空中散歩。全員が搭乗前に体重を聞かれ、機の左右に振り分けられる。ヘッドセットをつけていよいよ浮上。アメリカ第２の規模を誇るTongass National Forestトンガス国立森林公園の上を飛ぶ。アラスカ檜、エゾマツなど針葉樹がびっしりと水際まで直立する島々。大小無数の入江と湖。熊、狼、鷹、ムースをはじめとする多種類の陸と海の動物が棲息すると言われるが、空からは残念ながら生き物の気配はない。目を上げると、雪を残した山並みがはるか遠くまで続いている。アラスカでも指折りの景観という。冬にはすべてを雪が被い、手つかずの白一色の世界が出現するのだろう。所々に滝が細く糸を引いている。大きい滝は落差３０５mもあるというが、細く見えるのは周囲の大きさのせいか。

無口なパイロットの若者は、お決まり通り、山に囲まれた入江に着水、ドアを開いて、フロートに降りるよう促す。波一つなく静かな水面ではあるが、水深２００m。水は冷たそう。at your own risk (自分の責任で)の国アメリカではあるが、つるりっと足を滑らせたら、どうするの～～。こわごわの５分間の体験を楽しんだが、フロートの上では誰もが無口だった。冬には、この空にもオーロラが舞うのだろうか。空想するだけでも幻想的だ。

１８６７年、ロシアはアメリカにアラスカを７２０万ドルで売却。ラッコをはじめとする毛皮をとる動物を絶滅寸前まで狩り尽くし魅力がなくなったことと、クリミア戦争の痛手から国内整備に力を入れる必要があったことなどが理由といわれている。皮肉にも、アラスカで金鉱が発見されたのはそれからたった３０年後のこと。思いは北方領土に飛ぶ。いつまでも先延ばしにせず、ロシアと妥当な解決をみてほしいものだ。政治家の度量、度胸、本気が問われている。

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（2012/8　よこやまゆうこ）