フィレンツエの南、トスカーナの緑豊かな丘の上に、複雑な歴史の証人のような多重文化を反映する町シエナは出現する。シエナ人は二度洗礼を受けるという。二度目は住まうコントラーダ(地域)の仲間として受け入れられるとき。それほどに地域ごとの結束が強く、いまだに結婚もその中で行われる風習があるという。 8月16日はおりしも年に2度行われるPalio (パリオ)競馬の日。この日この町に居合わせたのは千載一遇、何としても見晴らしのよい席を確保せんと腐心の結果、バルコニーをゲット!
その前にお決まりの大聖堂ドゥオモやモスク見学。1284年起工のイタリア最美といわれるファサード、内部は長期間にわたり何人もの建築家がかかわり、黒死病や飢餓の蔓延、市財政危機など、さまざまな時代を経て未完の部分を残し今の形に。ゴシック、ルネッサンス、バロックの混合である。大迫力にあんぐりと口を開けて見上げるほかなし。懺悔のためのブース(告解室)があったので地元民のガイドさんに、今でも真面目に告白するの?と問うてみたら、するという。この超密度の空間で、どのような私的告白をするのだろうか。
さて、いよいよのパリオ競馬。到着した昼前にはすでに昨晩からの場所取りが進んでいて、浅い擂鉢状の広場の見やすい場所はすでに満員。始まりの7時まで一歩も動かないのだそうだ。数週間から前日までのプロセスにも力が入っているらしく、今回は参加10地域のうちのどの地域の馬が勝つかは一大関心事。馬とジョッキーはイタリア各地から連れてこられる。落馬しても馬が一着に走り込んだら馬だけで勝負がつくのがルールという。地域ごとの着飾ったパレードが延々と続き、陸続と見物客が広場にたまってゆく。既に担ぎだされる人も2、3人。熱中症にならないほうが不思議の炎天下だ。
ついにその時が!7時を10分も過ぎた頃、景気よいドラムの音とともに10頭が入場。観客の興奮も一気に高まる。頃よくスタートかと思えば、何やら二組三組のジョッキー同士が何げにひそひそ話をしている。これも伝統の駆け引き、取引というものだそうだが、公然の八百長ゲームなのかどうか、よくわからない。さんざんひそひそ話をして、10頭目がやや後方から走り始めると一斉に疾走。広場を三周して、勝負はあっという間。二人が落馬。今年の勝者は「波」をシンボルとする地域のジョヴァンニ君。広場の一角を占める白と水色の波模様の旗が揺れる。「波」地域の住人が馬場に走り込み大混乱の始まり。4万とも5万とも言われる人が入り乱れて大興奮。これほどの人間のかたまりを上から見降ろしたのは初めて。あっけなかった競馬以上に、広場と周囲の建物を埋め尽くした群衆に一種感動。祭りは人を熱くする。
今回のパノラマはやっぱりこれ。
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(2013/8 よこやまゆうこ)
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