『てのひら手帖 図解 日本の漆工』
ISBN978-4-8087-0988-4
発行所:株式会社 東京美術
監修/イラスト:加藤 寛
価格:1600円+税
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こんな書物が欲しかった!と声をあげたくなるような一冊が出版されました。漆にかぶれてしまった人も、そうでない人も、てのひら手帖と名づけられた手ごろなサイズの一冊を携えて博物館に行けば、何倍も深い美術観賞ができ、食卓で使うお椀にも愛着がでること請け合いです。監修の加藤 寛さんの文章から、この本が編まれた様子が伺われます。Art Guide for Beginnersとあるのも親しめます。
「(省略)7000年以前から日本人は創意工夫を重ね、土、木材、竹、金属などの器に漆を塗り漆器を作ってきました。さらに漆は単に乾燥するのではなく、重合といって立体的に固まるために酸やアルカリなどの薬品に負けません。漆の持っている強度と液体であるという性質から、さまざまな素材とともに長い歴史を作り上げることができたのではないでしょうか。(省略)漆芸品は絵画と違い立体物であるため、蓋をした箱や扉を閉めた厨子などの状態で展示されていて内部の構造や文様を見ることはできません。そのために今回の出版では漆芸品の内部や製作工程について絵を描いてわかりやすく解説しました。漆器や漆芸品の理解や観賞のヒントになれば幸いです」
加藤さんのイラストが素晴らしく分かりやすいのです。考古学の分野では、発掘現場の克明なスケッチをとるのが習慣とされているようですが、どれほどカメラの性能があがっても、人の目が見て、鉛筆で描いた線は対象物を正確に説明してくれることに似ています。
挽物(ひきもの)や刳物(くりもの)の技を駆使してエレガントな曲線をなす根来塗の「湯桶」の説明では、竹の繊維を撚りあわせた竹縄を用いた箍(たが)で堅牢な容器を作るという工程にはあらためて驚かされ、言葉だけで知っていた高蒔絵、研出蒔絵などの技法の図解は、目から鱗の落ちる納得! 次の博物館行きには超拡大鏡を携えて行こうと思わずにはいられません。
筆者紹介:1976年東京藝術大学大学院美術研究家漆芸専攻修了。東京国立博物館資料部室長、東京国立博物館修復技術部室長、同部長、東京藝術大学大学教授などを歴任。著書多数。漆の話を始めると、その広く深く微に入り細に亘るお話は夜が明けても終わらない博覧強記。海外に流出した漆芸品の修復作業で培った海外美術館との人脈は宝物とも言うべきもの。
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