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『湘南の漆 横田朋子さんを訪ねて』

湘南の漆とは何でしょう、と不思議に思われるでしょうか。ヨットやサーフィン、古くは湘南サウンズとつながるイメージの湘南と漆。実は、知られざる昔からの漆器産地が存在したとか、鎌倉彫の流れでしょうか。
そうではなく、伏見眞樹さんを中心とする、湘南地域に住まい、たまたま漆塗りを生業にしようとしている若い作り手たちが、グループの名称をそう決めたのです。仄暗い和室で黒光りする漆のイメージが、何やら、軽やかな潮風薫る漆塗りに思えて来るから、名前って不思議です。

葉山在住の横田朋子さんはちょっと変わったキャリアで漆に関わるようになりました。
最初の職業に選んだのは歯科技工士。細かな作業が好きだったと言うからには、適職だったのでしょう、6年も続きました。でも、この仕事はきつい、汚い、厳しいの3Kだそう。納期を守るための徹夜はあたりまえ、微細な粉塵が顏を目がけてとんでくる汚れ仕事だそうです。金属粉を吸いこむ恐れも高く健康被害もあると言われています。そのせいか、男女半々で入社しても残るのは圧倒的に男性。ともかく、その業界に6年もいたということは、かなりのがんばり屋さんであろうと推測できます。
根をつめる仕事をはなれたときは、気分転換に美術館巡りを趣味としていたこともあり、貯金が溜まったところで退職。何か美にかかわることがしたいと、京都伝統工芸専門学校に入学。この学校は各種伝統工芸を現役の職人さんから学ぶことを掲げ開校した専門学校です。細かな仕事と優雅な美しさに魅かれ、蒔絵を選びました。2年の蒔絵修行ののち、先生でもあった仏壇仏具を専門とする三代目下出祐太郎氏の工房を手伝うようになりました。丁度、京都迎賓館が建設されるときで、ありとあらゆる伝統の手技が求められていました。ここで、調度品に蒔絵をつける仕事を1年半ほど担当しました。横田さんの手によって施されたプラチナに象嵌をあしらった座卓や蒔絵の座椅子は、京都迎賓館「水明の間」で、海外からの賓客をもてなしているはずです。その後も師のもとにとどまり、京仏壇の扉に蒔絵を施す仕事などで腕を磨きました。
 
通算6年に及んだ京都暮らしで、おおらかな気風の湘南ガールはちょっとお疲れ気味、、、。2010年、葉山の実家にもどりました。もどったものの、販路のつてもなく、人間関係も少ない。作品として作っていた仏壇の横に置かれるような本格蒔絵象嵌の香合を、フリーマーケットに並べて、逆にお客様から、“この品は、フリマに出すものじゃないでしょ”と言われたこともあるそう。
横田さんの制作は、蒔絵で描きたいと思った植物を育てるところから始まります。例えば、夜顔の花をモチーフにしたくて、種を蒔いて栽培し、開花した夜顔をスケッチ、デザインに落としこんで香合に貝象嵌する、といった具合に徹底しています。

葉山で巡り会ったのは、地元の観音堂のひどく傷んだ子育観音像2体を修復してほしいというもの。最初から、予算はないけれど、といわれての修復作業。2年がかりで修復を終え、そのプロセスの仔細な資料を提出した時、地元関係者は初めて依頼した仕事の大変さを理解し、おおいに喜ばれたとのこと。横田さんにとっても、師もない中の手探りの作業ではありましたが、学ぶことも多かったとおっしゃいます。
 
さて、横田さんの漆作家としてのキャリアは、これからが勝負と拝見しました。そのためにまず必要なものに、自身をマネージする能力がありそうです。作りたいものを作っていれば誰かが販売してくれる、なんて夢のような話。腕さえ良ければ、佳いものさえ作っていれば、いつか誰かが見いだしてくれる、も夢。あらゆるもの作りに共通なのかもしれませんが、これからの若い作り手たちには、手しごと以外のさまざまな能力が要求されているようです。横田さんの頑張りに期待しつつ応援したくなりました。
    (2014/10 よこやまゆうこ)

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