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『カトラリー一万本の軌跡』漆作家 伏見眞樹
『カトラリー一万本の軌跡』漆作家 伏見眞樹

「湘南の漆」を提唱する神奈川県葉山町で漆器制作を続ける眞樹眞樹さんが、竹と漆のスプーン1万本達成を記録されました。このサイトからも、ベビースプーン&フォークを赤ちゃん誕生祝いにお遣いいただく若い読者が後をたちません。
達成記念展を成功裏に終えた伏見さんから、投稿をいただきました。

5,000円と3,500円。1990年の型紙から復刻したスプーン大と小の当時の価格です。それが今回の『竹と漆のカトラリー・一万本達成記念展』では、2倍の10,000円と7,000円に。そもそも5,000円と3,500円が妥当な価格ではありませんでした。25年前は手探り状態でスプーンを作っていたので、現在より遥かに時間がかかり、しかも完成度が低く、高い値段をつけたくてもつけられませんでした。ましてや、当時の一般的なスプーンの売値だった3,000円とか5,000円以上の高額なスプーンなど、売れるはずがないと思っていました。結局のところスプーンは採算を諦め、カレー皿やスープ皿を魅力的に見せるための飾りものとして作ることにしました。

個展を重ね、追加のご注文をいただくようになり、次第に制作本数は増えていきます。ところがそれは、正直なところ決して喜ばしいことではありませんでした。スプーンからは利益もあがらず、そのうえ、木地の制作から塗りの仕上げまで、器類とは全く異なる作業なので、器類の制作手順を狂わせる存在でさえありました。採算や仕事の効率などを考えなければ、スプーン作りは楽しく最高の趣味になったと思います。けれども工房経営上は器とスプーン作りの両立は厳しく、煮え切らぬままスプーンを作り続けていました。

1998年、そんな中途半端な気持ちを変えさせられる機会がありました。漆関係者の集いが石川県・山中で開催されたとき、木地師さんの工房を見学。その職人さんの真摯な作業に圧倒され、自分が片手間にスプーンを作っていることがとても恥ずかしくなったのです。その後「スペースたかもり」で、スプーンを使ってフランス料理を食べる特別イベントを含む個展を開催。大量のスプーンの受注に応えられるような制作をする決心をしました。
「数をこなせば作業が効率化され、技術と体力も身につき、採算の合うスプーン作りができる」と考えていました。職人の仕事は道具作りと身体作りから始まります。スプーンの木地作りや、漆塗りに使う道具の工夫から手をつければ順調に制作本数は増えていくはずです。しかし、そんな期待はもろくも崩れました。量産を決心してわずか3年後、肩甲骨に激痛が走り、仕事が出来なくなってしまいました。思えばその時点で40歳を過ぎており、スプーン作りに適した身体作りなど到底無理だったのです。40過ぎの身体は、酷使すると鍛えられずに消耗するということを思い知らされました。そのアクシデントを機に、竹の堅い表皮を削るための電動彫刻機を導入、さらにバンドソーやベルトサンダーなどの機械も使用するようにして、身体への負担をできるだけ少なくしていきました。

もともと竹からスプーンを削り出す方法はもちろん、竹に漆を塗る方法にも伝統的な技法は存在しません。ですから制作本数一万本を越えても、未だに作業の手順や道具の工夫に完成形がありません。作る度に新しい発見があります。最も技術的に確立された伝統的な漆器の代表はお椀ですが、生活習慣や食生活の変化に伴い、お椀の存在感が薄れる状況はますます進んでいくかもしれません。もしも、スプーンなどの漆塗りカトラリーが漆器のスタンダードになる日が来たとしたら、何人もの職人が創意工夫を重ねるでしょう。そしてスプーン作りの技法が確立し、漆塗りのカトラリーも伝統工芸品と呼ばれるようになるかもしれません。*
(2015/9 よこやまゆうこ)

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