草木染した絹糸を高機で平織りした着尺14mを、ベッドカバーに仕立ててみました。お願いしたのは神奈川県在住の大阪登茂子さん。大阪さんは、女子美を卒業後、編み物やキルトや刺繍など、「針仕事ならなんでも」お好きで、素材や技法を組み合わせた制作でジャンルを超えた独自の境地を開いてこられました。
着尺に鋏を入れるときはドキドキすると和裁の友人が言いますが、キルトにするべく小片に切るのはさぞや勇気がいったことと、、。
制作の手順を踏んで説明と写真でご紹介します。思い出のある娘時代の着物をどうしよう、、と悩んでいらっしゃる方のご参考になればと思います。
1 初めての手織り布
お預かりした布は草木染め手織りの布で、どの部分も思い入れが感じられる着尺でしたが、今回はベッドカバーへの仕立てを承りました。
それに合わせ、ご本人が選ばれたシルクを取り寄せ、中綿は近江の丹前用真綿を選びました。
布にアイロンをかけますとたちまち糸の個性が現れました。これは一番尊重されるべきものと考えています。誰がなんと言おうと最後には素材の主張が通るからです。反物では見られなかった縮みが見られ、それにまた別の風景を見せてもらえました。
2 デザインと製図
まずは布を広げ、どの場所にどんな柄があるか確かめイメージを広げていきます。織り手の自由な発想が感じられる柄ゆきに、どんどんとそれを助けてもらえたのはとても興味深いものでした。
おおよそのイメージをもとに、縮尺の製図を書き始めます。具体的な布の配置より、全体のデザインを主に考えたので、漠然としたデザインを一度書き上げることで足りない部分、うるさすぎる部分を製図で確かめます。
3 布の裁断
製図に合わせていよいよ布の位置決定と裁断です。柄にある色合いや強さが単純にならないよう縦横を見比べ、パズルのようにはめ込んでいきます。この時、大事な預かりものの布にロスが出ないよう気を配りました。そのため、途中で切りたくない部分が出てくれば、製図を直します。製図の時点でデザイン上、刺し色が必要と感じた部分の紫色のことも含めてバランスを見ながらの作業です。いずれ経年変化で化学染料とそうでないところの力のバランスが変わりますが、そんな時期に額縁と中心部の橋渡し役ともなるはずです。
4 いよいよ縫製
慎重に縦横を合わせてミシンで縫います。紫のシルクをリボン状にしたものを間に挟みながらの作業ですが、この刺し色の幅にも注意が必要でした。5ミリにするか7ミリにするか、やってみないと分からないこともあります。また同じように、縫う段になってさて「この配置では…」と布の差し替えもすることがありますが、これもなるべくロスが出ないように同じような大きさのもので柄が望ましいものを選び直しました。
5 キルティングの準備
いよいよ全面が縫い上がりました。このときの問題は、作品が大きいため個々の微妙なズレがはっきりと大きな数字となって現れたことです。狂いが生じ、どこでそれを調整できるか数日悩みました。パズルのように入り組んでいるデザインですから、一カ所をほどいて縫い直せば良いというわけにいかず、決めかねて眺めるだけの日もありました。それでもやっと許容範囲内に収めることができました。
いよいよ裏地と丹前用真綿を広げ、その中心部を合わせて表面を乗せます。中心から放射状に生地を逃がし、ズレやたるみがおきないようにしつけをかけます。ちょうど写真の赤いしつけが中心になります。この作業もやっかいで、生地は動かせないので、自分が上に乗りながらの仕事は気持ち的に抵抗があります。
6 キルティング
キルティングは手縫いの絹糸で行いました。針ですくえるほどの厚さではなかったので、やはりひと目ずつ上下に針を動かしていきますが、この作業はすぐに自分の心持ちが現れてしまうので困ります。
ただもう最後の山場へ向かってひたすら進むだけですので、ここがもっとも安らぐ作業だったかもしれません。気がついたら80m巻きの糸を使い切りました。空になった紙の台紙をみて、なんだかうれしくなったものです。もちろん、最後が近づいているということの現れでしょうが。
7 ふちの始末
全体に縁取りを付けますが、裏側は手縫いでかがりました。もちろんミシンでやることも可能でしたけれど、ミシンで叩けばそこがつぶれてしまい、縁取りが際立つのが気に入りません。あくまでも目につかぬ場所にしたかったのでした。
おわりに
どの分野も同じでしょうが、自然の素材を扱うということは、素材と自分の折り合いをどこでつけるか、そこが鍵になると思っています。思い通りにしたとしても必ずこちらが素材の言うことを聞かせられるし、もしだましても、使い手の手に渡れば、姿を変えてしまうかもしれません。使い手が初めて手にしたときの印象を長く持ち続けられるように作ることを、私は大事にしたいです。また、一緒に年を経るのを楽しみに出来る生活道具を作りたいと思います。(文・写真 大阪登茂子)
使い手からひとこと
刈安で染めた黄を主調に、紫がかった紬糸、数本の糸を縒りあわせた太めの糸などをアクセントに、冒険的な布に織り上がり、さて、何に仕立てようかと思案。日々身の回りで使えるもの、40cmx14mの分量を思いきり楽しめるものにしたかったので、インテリアとしての役目も担ってくれるベッドカバーに。大阪さんには、好きなように切り刻んでください、とお任せしました。細かなところまで心を傾けて下さった結果は期待を上回る出来映え!人生の1/3の眠る時間を気持ちよく過ごせそうです。
(2015/11 よこやまゆうこ)
(C)Copyright 2004 Jomon-sha Inc, All rights reserved.
このホームページに掲載されている記事・写真・図表などの無断転載を禁じます。